【愛の◯◯】髪を洗ってあげたいサナさん

 

「プチ帰省」ということで、昨日からお邸(やしき)に来ている。

朝食後。わたしはアツマくんの部屋の前に立っていた。

軽く深呼吸して、ココロを整えて、ノック無しで部屋に入っていく。

 

二度寝せずにちゃーんと起きてたわね。偉いわ」

「偉いか?」

「偉いわよ。」

『できるだけ優しくしたい』というキモチを籠めて、彼をジックリと眺めていく。

ベッドに座るアツマくんが照れ気味になる。

「なんか、ホメられると、戸惑っちまうんだよな」

優しさを籠めた声で、

「戸惑わなくたっていいじゃないの」

とわたし。

「たまにはツンデレを封印したいの」

とも言う。

それから、

「攻撃的じゃないわたしのことも受け容れてよ」

と、さらに付け加えてみる。

「そっか」

と言って、わたしの恋人は苦笑いながらに、

「そんな心がけのおまえも、可愛いよ」

と。

嬉しい。

 

「ところでアツマくん」

「なんだ? 愛」

「この前わたし、東京競馬場に行ったじゃない?」

「行ったが、それがなにか」

「たっぷりと当日の報告をしたいところだけど。諸事情によって、競馬場レポートは後日だわ」

「諸事情ねえ」

「あなたなら理解してくれるでしょう」

「まーな」

ブログ読者の皆さま。

どんな諸事情なのかは、自由にご想像ください。

ヒントは、このブログの制作体制。

 

× × ×

 

『階下(した)でコーヒー飲みましょうよ。わたしが淹れてあげるから』と促したら、アツマくんは素直に頷いてくれた。

 

リビングの長テーブルに、模様の違うマグカップが2つ。

向かい合ってコーヒーを味わっていたら、サナさんがリビングの近くに姿を現した。

「いいねー。そうやってお互いコーヒー飲んでる光景」

そう言って、わたしの右斜め前のソファに座るサナさん。

「サナさん」

呼びかけてわたしは、

「そろそろ新しいアパートに行くんですよね。お邸での暮らしが名残惜しくないですか?」

「それは名残惜しいよー。アパート暮らしの100倍快適だし、他のメンバーも住んでるから、独りぼっちの寂しさなんか無かったし」

そう答えつつも、

「だけど、『この環境に甘え続けたくない』ってキモチもある。わたしアラサーだから、ひとりでもキチンとやっていかなきゃだもんね」

ステキなお言葉。

「アツマくん。サナさんがすごく良いこと言ってるわよ? 同じ社会人として見習うべきだと思わない?」

「だな。見習うべきだな」

ここでサナさんが、

「あなたたちは『ふたり暮らし』でしょ? ふたりで互いに支え合って、キチンと暮らしていくべきだよ。キチンと暮らすっていうのは、『丁寧に暮らす』って言い換えてもいいけど」

「『丁寧に暮らす』ですか。なんだか、ステキな響き」

とわたし。

それから、

「アツマくん。丁寧に暮らしていくのを、頑張ってみましょう?」

と、やや前のめり姿勢になりながら、彼に促してみる。

それからそれから、

「アツマくんは社会人になったけど、ガサツなのがまだ抜け切ってるわけじゃないから」

と、若干イジワルに言ってみる。

「……ふん。」

少しだけ眼を逸らすアツマくん。

可愛げがある。

サナさんが、

「ねえねえ、アツマくん?」

と呼びかけ、

「わたしが邸(ここ)を出ていく前に、記念に、アツマくんにシャンプーしてあげよっか」

「エッ」

驚いてサナさんのほうを見るアツマくん。

そして、たじろぎ気味に、

「サナさんが……おれの……髪を、洗うんですか?」

「あれれ~~??」

と、余裕の余裕でサナさんは、

「もしかして、恥ずかしかったり!?」

「いや……その……」

アツマくーん。

情けないわねー。

「アツマくんはさ、一人前の社会人なんだからさ。わたしに髪を洗われることも、躊躇(ためら)っちゃーダメだと思うよー?」

サナさんの言う通り。

わたしも加勢して、

「決まりねアツマくん。さっそくスケジュール調整といきましょう」

「ななっ」

『ななっ』じゃないわよ。

ホントーにもう……。

たじろぎ続ける彼をジットリと見つつ、

「サナさんに『かゆいトコロ無い?』って訊かれたら、マジメに答えてあげるのよ??」

「ま、マジメに答えるっつったって、どうすれば……」

「自分で考えなさいよ。あなたももうすぐ社会人2年生になるんだから!」

「ぐぐ」

あはは。

現在(いま)のアツマくんのうろたえかた、とっても可愛くて、好き。