【愛の◯◯】ホメてくれるセンパイと、もてあそぶセンパイと

 

えーと、皆さん、こんにちは。

貝沢温子(かいざわ あつこ)と申します。

……申すんですが、周りからはよく『オンちゃん』と呼ばれています。

とある高等学校の1年生。

部活動はスポーツ新聞部。

それから、委員会にも入っていて、どの委員会かというと、図書委員会。

えーーっと。

まだなにか自己紹介するべきことあったっけ。

んーーっと。

とりあえず、身長は、155センチであります……。

 

× × ×

 

卒業式の週が始まった。

金曜日にはセンパイがたが巣立つ。

部活には3年生のセンパイが3人居るから、とってもさみしい。

3年生トリオのかたがたとの日々を振り返って、少しセンチメンタルになりながら、放課後の図書館へと歩いていく。

 

図書委員の用事があったのである。

カウンターの奥にあるお部屋で、3月の展示の打ち合わせをする。

わたしは2年の春園保(はるぞの たもつ)センパイと向かい合っていた。

 

3月の展示のテーマは「漫画」だった。

図書委員のオススメ漫画を展示する。

春園センパイがレコメンドしようとしているのは、『税金で買った本』というヤングマガジンの漫画だった。

ヤングマガジンって不良っぽいイメージだったけど、『税金で買った本』は、そのタイトルが暗示する通り、公立図書館を舞台とする漫画だという。

先日、わたしが、

『こんな漫画知らなかったです』

と春園センパイに言ったら、

『そりゃ意外だなぁ』

というコトバを返された。

意外だったんだ。

 

さて、打ち合わせも短時間で済み、これからどうしようか……というトコロである。

「思ったより早く終わっちゃいましたね」

春園センパイに苦笑いで言うわたし。

「だね」

センパイ男子の彼は、

「時間余ったし、せっかくだから――」

「?」

「貝沢さんの部活のハナシ、したいかな」

「!?」

センパイがバッグの中をガサガサとやり出して、わたしたちが作っている校内スポーツ新聞を取り出した。

いきなりだからビックリ。

ビックリしたからドキドキ。

「貝沢さん。きみってさ」

紙面を凝視しながら、

「野球だけじゃなく、サッカーへの理解も深いんだね。持ち前の文章力が、サッカーの記事でも、いかんなく――」

 

× × ×

 

『持ち前の文章力』って言われちゃった。

なぜだか、『持ち前の文章力』というコトバの響きが、図書館を出てからもわたしの中で残っている。

ホメられたんだよね? わたし。

 

嬉しさよりも戸惑いを強く感じながら、やや下向きに渡り廊下を歩いていた。

すると、

「貝沢さんじゃな~い。元気~~??」

なんと前方に、先代生徒会長の、川口小百合(かわぐち さゆり)センパイが。

「か、かわぐちセンパイ、どうしてここに」

「きちゃった☆」

黒髪のストレートヘアで、確か167センチの長身。

ただ、身を包んでいるのが、制服ではなく私服だったから、そのことに困惑していると、

「さっき学校に着いたの。私服なのは先生に『根回し』してるから」

わたしは恐る恐る、

「……なんのご用事で?」

「あなたに会いたかったのよ」

「!?!?」

軽く笑いながら彼女は、

「6割はホンネよ☆」

「よ、4割は、冗談、なんですか」

「不満?」

不敵な笑み。

追い詰められかけのわたしは、耳に入っていた情報を思い出して、

「せ、センパイ、だ、大学、合格されたんですよね、お、お、おめでとーございます」

と、懸命に。

いつの間にかセンパイのほうから距離を近づけている。

「ありがとーー!!」

大きな喜びを表す声でセンパイはそう言って、それから、

「あなたも頑張るのよ!!」

と言いつつ、すごい勢いでわたしの眼の前まで来て、それからそれから、

「いろいろあるでしょう、あなたには。頑張るべきこと、頑張りたいことが」

と言ったかと思うと、襟元を人差し指でちょん、と突いてきた。

微妙なトコロを突かれた。

ので、体温が上がってしまう。

「あらあら。熱くなっちゃってぇ」

余裕に余裕を重ねた彼女は、

「もう幾つ寝るとあなたも2年生じゃないの。もうコドモじゃないでしょう?」

と……もてあそび続ける気まんまんの表情と声で、わたしに迫ってくる。