3年生トリオが引退したので、2人で校内スポーツ新聞を作っている。
ページ数が少なくなるのは避けられない。
でも、わたしもオンちゃんも一生懸命頑張っている。
新聞を配る時に『いつも楽しみにしてるよ』と言ってくれる生徒もいる。
ますます『頑張らなくちゃ』と思う。
「なつきセンパイ。新年度の部員集めについて、そろそろ『作戦』を考えないといけませんよね」
唯一の後輩のオンちゃんが言ってきた。
だけどわたしは、
「それも大事だけど」
と言い、
「今日は、そのことを考えるのはいったんお休みにして」
と言い、活動教室の出入り口のほうを見ながら、
「特別ゲストがもうすぐ来るの」
「特別ゲスト?」
「オンちゃんには事前に知らせてなくて、ゴメンナサイなんだけど」
「どなたですか、特別ゲストって」
「この部活のOB」
「OBってことは、男子……」
ここで出入り口の扉がガラッ、と開いた。
加賀先輩が来たのだ。
× × ×
オンちゃんは加賀先輩に対し、
「あのっ、わたし貝沢温子(かいざわ あつこ)です。よろしくお願いします」
と言って、お辞儀する。
「貝沢、か」
加賀先輩は、
「こちらこそ、よろしくな」
と言いながら、オンちゃんと目線を合わせる。
目線合わせがしばらく続いた。
見られ続けているので戸惑うオンちゃん。
彼女に彼は、
「戸部あすかさんの面影が……あるじゃねーか」
「エッ」
ビックリしてオンちゃんは、
「戸部あすかさんって……あの、伝説のOG」
「そーだ。なーんか、似てる気するんだよな」
ここでわたしも、
「加賀先輩、鋭い直感ですね。わたしはあすかさんと入れ違いで入学したから、部活動で一緒じゃなかったんですけど、卒業間際な今の3年生トリオは、口を揃えて『あすか先輩の面影がある』って」
「やっぱりか」
軽くうなずき、
「将来有望な証(あかし)だな」
と言い、オンちゃんに向かって、
「頑張るんだぞ」
と激励する。
微笑ましいけど、加賀先輩が『頑張るんだぞ』とか言うなんて、なんだか可笑(おか)しくもある。
こういうことを滅多に言わない先輩だったから。
予備校通いの1年を経て、変化でもあったのかな。
× × ×
「んーっと……加賀さんって、卒業されたあと、確か……」
言い淀むオンちゃんに、即座に、
「浪人した」
と、加賀先輩。
そしてすぐに、
「で、浪人の甲斐あって、めでたく大学に合格した」
「そうなんですか。おめでとうございます」
わたしからも、
「おめでとうございます先輩。浪人生活にピリオド打てましたね」
「2人ともサンキューな」
窓辺にもたれて、浪人終わりの先輩は、
「どうしようもない偏差値の大学ではあるわけだが」
わたしは苦笑しながら、
「偏差値だとか大学の格だとか、どうだっていいでしょーに。受かったことがすごいんですよ。素直に喜んでくださいよ」
「ぬ……。本宮(もとみや)、厳しいな、おまえ」
「椛島先生には報告したんですか?」
「したよ。職員室まで行ってな。した途端に、先生、興奮気味になっちまって。興奮がエスカレートした挙げ句、涙目にまでなって。めちゃくちゃ困った」
そっかぁ……。
「椛島先生、そうとう嬉しかったんですね」
あったかいキモチがわたしに満ち溢れて、
「手のかかる教え子ほど、可愛いんですよね。加賀先輩、まさにそんな存在だったんだもの」
「ぬなっ」
苦い顔ながらも、ほっぺたには熱がある。
そんな先輩を今日、見ることができた。
見ることができて、この上なく嬉しいわたしだった。
「オンちゃん」
嬉しさで勢いづいて、
「秘蔵エピソード、教えてあげる。加賀先輩とわたしにまつわるエピソード。加賀先輩がね、わたしに『いいコト』してくれたの……」
「『いいコト』、ですか」
オンちゃんは興味津々になる。
こうでなくっちゃ。
わたし、加賀先輩のこと、純粋に尊敬してるんだから……秘蔵エピソードを後輩に明かして、尊敬のキモチを全力で表現したい。