【愛の◯◯】合格あすかと8人の部活関係者

 

活動教室。

眼の前には、加賀くん。

恥ずかしそうに、立っている。

 

「……。

 副部長として、言わせてもらう。

 その……。

 合格おめでとうございます、あすかさん

 

 

――思わず、吹き出してしまいそうになるわたし。

吹き出しちゃいけないんだけどね。

 

 

――加賀くんは、見かねて、

「その態度はねーよ……おれ、慣れない敬語まで持ち出して、祝福してあげたのに」

 

ごめんごめん。

「ごめんごめん、加賀くん」

 

……そっと彼の右肩を叩き、

「ありがとう」と言う。

スキンシップに動揺したのか、彼は顔を赤らめる。

 

「お……おれは、将棋盤に戻る」

「うん、戻っていいよ」

「……とつぜん、肩に触るのはやめてくれ。ビビる」

 

いいじゃん、たまには、さ。

そこそこ長く、いっしょに部活にいるんだし。

――ビビっちゃうのか、それでも。

 

 

加賀くんが定位置にしりぞく。

代わって、1年生トリオに相次いで祝福される。

 

ヒナちゃん。

「ほんっとーによかったですっ!!

 あたし、あすか先輩の合格が嬉しくって、泣きそうになっちゃった!!

 というか、ちょっと涙出た!!

 きょうは、たくさんたくさんお菓子食べてください!! 特にアメちゃんはいっぱい持ってきてるんで」

 

ソラちゃん。

「あすか先輩、ほんとうにおめでとうございます。

 わたし、先輩の『銀メダル』の作文に導かれて、この部活に入って……ほんとのほんとに良かったと思ってます。

 先輩は、この学校のヒーローです。

 大学でも、輝いてくださいね……!」

 

会津くん。

「ボクも水谷と同じ気持ちです。

 戸部先輩の、作文オリンピック『銀メダル』の輝きは、永遠にこの学校の歴史に残ると思います。

 戸部先輩……これからも、憧れさせてください。

 おめでとうございます。じぶんのことみたいに、嬉しいです」

 

× × ×

 

顧問の椛島先生が、活動教室に入ってきた。

 

もちろん、わたしが合格したことを、知っている。

 

 

わたしの合格があまりにも嬉しかったのか――ハグされた。

 

「――なにも抱きしめなくたって」

「いいじゃないのよ。わたし感動してるのよ、あすかさん」

「教師に抱きしめられるなんて――初めてです」

「そうなの……あすかさんの『初めて』に、なっちゃったわね」

「もう。椛島先生、エッチなんだから」

 

身をほどく。

スキンシップに飽き足らないのか、わたしの頭頂部に手のひらをくっつける。

くっつけたまま、

「『あの3人』に、連絡しちゃった」

「桜子さんと岡崎さんと瀬戸さん――に?」

「そう。連絡先知ってたから」

「……知ってたんですか」

「グレーゾーンだけど」

「……はしゃいでますね。椛島先生も」

「――連絡したらね、3人とも、リモート出演してくれるって」

「リモート出演?」

「パソコン、あるでしょ? ネットに繋げられるでしょ?」

 

× × ×

 

3人のOG・OBが、モニター画面に映る。

 

一宮桜子(いちみや さくらこ)さん。

岡崎竹通(おかざき たけみち)さん。

瀬戸宏(せと こう)さん。

 

いずれも、わたしの1つ上の先輩だ。

 

ちなみに、桜子さんと岡崎さんは、つきあっている。

 

 

――岡崎さん!

『え、おれ!?』

「はい、岡崎さんを呼んだんです」

『どうして、おれを、単独指名……』

「ふふふ」

『……すごい笑いかただな』

「――応援してくれてました?」

『――まず大丈夫だ、と思ってたよ。あすかさん、きみの実績と実力なら』

「信じてくれてたんですね」

『まぁ……そうともいう』

 

岡崎さんとは……いろいろ、あったからなー。

真っ先に呼びかけたのには、『そういう』背景も、あった。

 

そして……わたしは、同時に映っている桜子さんの様子にも、気を配りながら。

 

「岡崎さ~ん」

『……なぜにもう一度、呼びかけを』

「ジュンチョーですか??」

『え? な、なにが』

「とぼけちゃいけません」

『えっ……』

桜子さんのマンションのお部屋、行ってますか?

 

はい。

絶句、いただきました。

 

 

『あすかちゃん……エッチね、あなたも』

 

そう言ったのは桜子さんだった。

 

桜子さんは、千葉大の近くに引っ越しちゃったけど――通ってるんだな、岡崎さん。

断定できる。

千葉まで通う交通費なんて……すずめの涙、なんだろう。

 

岡崎さんと桜子さん……3年かけて、卒業間際でようやく、くっついた。

 

もうひとりのOBの瀬戸さんが、まだ少し初々しいカップルの様子になかば呆れつつ、わたしに向かって祝福のことばをかけてくれる。

 

『おめでとう。めでたいことだ。うん、めでたい』

「ありがとうございます瀬戸さん。……ところで」

『な、なんだい、』

「……どうですか? 神岡さんとは」

不意を打たれた瀬戸さんに……容赦なく。

「パートナーに、なれていますか? 神岡さんの背中、押してあげられてますか?」

 

瀬戸さんは、ほっぺたをポリポリかいて言う。

『……もちろんさ』

「――いいですよね。夢を応援する瀬戸さん。夢を応援される神岡さん。もちろん気持ちは通じ合っていて……」

 

『……』

 

「あちゃ。わたし、はしゃぎすぎちゃったかな。合格の、喜びで」

『あすかさん――』

「なんでしょうか?? 瀬戸さん」

『――きみも、パートナーを、作ろうよ』