しゃきんと起きた。
――よし。
順調。
× × ×
アツマくんと向かい合って朝ごはんを食べている。
いつもの通りアツマくんのほうが早く食べ終える。
少し遅れて食べ終え、キッチンまで行き、あらかじめ沸かしておいたやかんを手に取り、コーヒーを淹れる。
わたしはわたしのマグカップ、彼は彼のマグカップで、食後のコーヒー。
半分近く飲んでから、マグカップをとん、と置き、
「文化の日よ!! アツマくん」
と高らかに言うわたし。
アツマくんは仏頂面めいた顔をして、
「文化の日だからなんなんだよ」
と。
わかってないわね~~。
「文化って大切でしょ!? 人類は文化とともに歩んできたんだから」
「……」
「どうしてそんな表情なの!? わたしの話に乗ってきてよ」
「……愛が朝から元気に喋ってるのはたいへん良いことなんだが」
「…?」
「『文化』って、より具体的には」
「ぶ、文化は文化よっ」
「だからー、具体的にだなー」
…今朝のあなた、イジワルね。
だけど、言ってあげるわ…具体的に。
「――音楽と、本!!」
「――結局、音楽と本かよ」
「妥当でしょ、アツマくん」
「妥当だけど無難だな」
「ぜんぜん無難じゃないからっ」
「ふーーん」
× × ×
アツマくんをわたしの部屋に強制的に連れてきた。
そして強制的に、2時間半この部屋に滞在させることにした。
2時間半わたしと過ごしてくれなかったらお昼ごはん抜き。
「――で、2時間半もなにすんの」
「とりあえず音楽よ。最初の70分は音楽を」
「や、70分ってなんだよ」
「70分がちょうどいいと思ったからよ」
「そうなんか?」
「アツマくん――CDを聴く? それとも、Spotifyとかでシャッフルで曲を流してみる?」
「おれの疑問を華麗にスルーしたな」
「……『Spotifyでシャッフル再生のほうがいい』って顔ね」
「なんじゃそりゃ」
…とにかく、Spotifyでシャッフル再生してみる。
わたしが「お気に入り」に入れていた膨大な楽曲がランダムにどんどん流れ出してくる。
もはやジャンルなんか無い。
聴いてるだけじゃつまらない…と、途中からイントロクイズを始めた。
アツマくんが結構答えられていて、びっくり。
「4年間も音楽鑑賞サークルに居たから――『実力』がついたのね」
「まーな。知識というか教養というか……そんなもんだ。持ってても役に立たないモノかもしれんが」
「そんなことないわよ。」
「断言するんか? 愛」
「断言するわ。絶対に役に立たなくなんかない。」
「おまえがそう言う理由は?」
「――いつか、わかるわ。」
彼に笑いかけながら言うわたし。
目線がナナメになって赤面する彼。
――決まった。
× × ×
残り時間は読書。
× × ×
「……本が読めるようになってきたんか? おまえ」
「徐々に」
「残り時間80分もあるが、大丈夫なんか」
「心配ご無用」
勉強机に置いていた詩集を手に取り、ベッドに座る。
「これはね、中学時代好きだった詩集なの」
日本の某・著名詩人の…詩集である。
わたしの持っている詩集を見て、
「なるほど……おまえがその詩人を中学時代好きだったっていうのが……良くわかる」
ホントにぃ!?
「ホントにぃ!?」
「……長い付き合いだろが。」
……それもそうね。
「それもそうね」
言いながら、まっすぐ優しく、アツマくんを見つめる。
ばつが悪そうに……彼はエミリー・ディキンソンの詩集に眼を落とす。
……ディキンソンなんて、あなたもいい趣味してるじゃないのよ。