【愛の◯◯】甘えて、「100%」になる

 

土曜日。

朝ごはんのあとで、ダイニングテーブルでアツマくんと向かい合ってコーヒーを飲んでいる。

「あなた、ずいぶん侑(ゆう)に慕われてるみたいじゃないの」

わたしがそう言うと、彼は、

「そうともいえるかもな」

と答えて、コーヒーをグイッと飲む。

彼がマグカップを置くのと同時に、

「慕われてるのは、いいと思う。でも、慕われてる『からこそ』、あなたには気をつけてもらいたいコトがあるの」

「えっ。……どんなコトを」

彼の顔をジトリ……と見て、

「あの娘(こ)も案外デリケートだから。なるべく、デリケートな部分に触れないようにしてあげて?」

やや困惑の彼は、

「デリケート?? もっと、具体的に……」

「自分で考えるのよ。一人前のオトナなんだから、あなたは」

さらに困惑の彼。

ヒントを出そうかしら?

いいえ。敢えてヒントは出さない。

アツマくん、なんだかんだで、女の子に接するのには慣れてるんだから。そんな彼なら、侑にだってちゃんと配慮ができるはず。

 

× × ×

 

仕事休みのアツマくんが、ソファでだらしなく週刊少年ジャンプを読みふけっている。

わたしは速足(はやあし)でソファに歩み寄って、

「ねえ。ちょっといい?」

「ジャンプ読んでるのを中断させる気ですか、愛さーん」

「ずいぶんとフザケてるわね」

わたしはジャンプに手を伸ばそうとするが、彼は軽快に避け続ける。

「そんなにジャンプが大事なわけ!?」

「大事だよ」

彼は、

「だって、おれがいちばん信用してるメディアは、週刊少年ジャンプなんだもーん」

と、とんでもないことを言い出す。

とんでもないこと……なんだけど、『漫画雑誌ぐらいしか信用できるメディアが無い』というふうな主張も、少しだけなら理解はできる。

なので、

「あなたのキモチも少しなら理解できるわ」

と言ってあげる、のだが、

「だけど今はジャンプを置いて、わたしを見てちょーだい」

と要求する。

「なんで?」と彼。

「なんでもよ」とわたし。

ジャンプを閉じた彼が、わたしを見つめつつ、沈黙する。

わたしの『要求』の理由を考えているのだろう。

見つめ合いが数分間続き、そのあとで、

「――『甘えんぼ』に、なりたいってか」

と、彼は。

「だいたいあってる」

わたしは答える。

わたしは彼にのしかかる。

わたしは彼を抱きしめて、ふぎゅー、と密着する。

強く抱いて、離せないようにする。

「おれの『推理』を言っていいか」

「どうぞ」

「一昨日(おととい)、おまえは調子を崩して、侑ちゃんに介抱してもらった。彼女のおかげで一応は立ち直った。でも、おれに甘えないままだと……」

「そーよ。侑のおかげで99%は立ち直ったけど、あなたに抱きつかないと、100%にはならないの」

「面倒くせぇなぁ、おまえも」

「侑よりはだいぶ面倒くさいかもね」

「侑ちゃんが性格に難があるとは思えない。一方、おまえは……」

「ねえアツマくん。もっと包み込んでよ」

「おれの言うこと最後まで聴けよ」

「やだ。やだやだやだ」

たぶん呆れている、アツマくん。

だけど……わたしのお願いに応えて、包み込んでくれる。