【愛の◯◯】「男女共学」という、泣き所

 

アツマくんと侑(ゆう)がダイニングテーブルで向かい合っている。

「愛の面倒見てくれてありがとな、侑ちゃん」

「どういたしまして」

「ちゃんと言うこと聞いてたか? 愛は」

「ハイ。いい子にしてましたよ」

ちょっとちょっと。

なんだかコドモ扱いっぽくないかしら。

「アツマさん。作ってくれたボロネーゼパスタ、すごく美味しかったです」

え。

侑……。彼が作った夕食、ホメるの!?

「すごく美味しかったので、作りかたを教えてほしいかも」

そんな。

「教えてやるよ。いつでも」

「嬉しいです♫」

高校生みたいな喜びかたしてるじゃないの……侑。

 

× × ×

 

「どうしてあなたはそんなにアツマくんをリスペクトできるの」

寝室のダブルベッドで枕を抱きながら侑に訊く。

右隣の侑がゴロン、と寝転んで、

「いろいろ魅力的なんだもの」

と言ってから、

「もっともあなたは、わたしよりも100倍アツマさんの魅力を知ってると思うけど」

「……そうかもね」

「『そうかもね』なんて、言っちゃダメ。愛、あなたは彼に、100人分の愛情を向けるべきよ」

「ひゃ、100人分の、愛情??」

「それぐらい好きなんでしょ。それぐらい愛してるんでしょ」

たしかに……。

侑のコトバ、割りと正論なのかも。

「あなたも横になったら? 朝わたしが来たとき、あんなにくたびれてたんだから、早く横になってカラダを休めたほうがいいわ」

またもや正論。

侑に従い、横になる。

すると、侑がわたしに向かって肩を寄せてきた。

「ど、どーしたの。そんなにわたしに近づいて……」

「近づくわよ。」

「なななっ」

「面白いリアクションするのね」

左手で、わたしの右腕に触れてきた。

ドキドキする。

侑のほうを向いてみる。

侑の黒髪がツヤツヤときらめいている……ように見える。

「電気……そろそろ電気、消しましょうか??」

「焦ってるわねえ、愛」

黙ってリモコンでLEDを消すわたし、だったのだが、

「女の子同士なのに。」

という侑の大胆な発言が、食い込んできてしまう。

侑はわたし向きに横寝(よこね)になる。

わたしはますます緊張してしまう。

 

× × ×

 

侑ではなく暗い天井を見つめることで、キモチを落ち着かせる。

どうしたっていうのかな。

この子がここまでわたしに迫ってくるなんて。

スキンシップがしたいの?

ひとり暮らし。生活費はバイトで稼いでいる。強くたくましく生きている、大井町侑という女の子。

だけど、基本は「ひとり」だから、淋しさを感じるときだって、きっとあるんだと思う。

淋しさが加速して、孤独になってしまうことだって、きっとある。

わたしと親友になってから、「ひとり」の辛さも少しは紛れたとは、思うけど。

 

「でも……わたしは、侑と同じで、女の子」

 

思わず口に出ていた。

依然としてわたしに急接近中の侑が、

「どうしたの、愛? あなたもわたしも女の子なのが、どうかしたの? 性別が同じだと、不都合なの?」

わたしはスゥッ……と息を吸って、吐く。

深呼吸のあとで、眼をつぶる。

10秒数えて、眼を開いて、もう一度深呼吸。

それから、侑のほうにカラダを向け、横寝で、侑の左手を握りながら、

「ねえ。アツマくんが居ないからできる話も、あるって思うのよ」

「? どういう意味よ」

「あなたって、共学の高校に通ってたのよね。わたしと違って」

侑が沈黙した。

賢い子だから、わたしのコトバのニュアンスを、正しく受け止めてしまったんだろう。

「男女比も、1:1に近かったみたいだし。女子校通いだったわたしとは、まるっきり環境が違った」

わたしは続けた。

侑が掛け布団に潜る音が聞こえた。

「あなたを怒らせちゃうかもしれないけど」

とわたしは前置きして、

「高校生にもなったら――男女交際の、ひとつやふたつぐらい」

とイジワルく言って、

「ましてや、男女共学という環境なのなら」

とさらにイジワルく言って、

「侑はたぶん、モテてただろうし」

と、トドメを刺す。

 

「……バカみたいなこと言わないでよっ、愛っ」

 

掛け布団に潜った侑のフニャけた声が聞こえた。

絶対、布団の中で丸まってる。

「愛はこう言いたいんでしょ!?

『男の子と、何回つきあったことがあるの?』

 って……!!」

わたしは思わず笑っちゃって、

「大当たり」

侑はわたしの右手を可愛くつねってきて、

「信じられないような質問をするのね!」

と、怒る。

「怒っちゃった? 答えたくないなら、スルーでもいいけど」

いいえ、答えるわ

「えっマジ!? 意外や意外」

「3年間で…………2回」

ホントに答えちゃった、侑。

あっさりと。