寝室へ。
わたしとアカちゃんは、同時にダブルベッドに入り込む。
アツマくんはもちろん、リビングで寝かせる。
「あ!!」
「ど、どうしたの愛ちゃん。いきなり叫ぶなんて……」
わたしが大声を出したからアカちゃんが驚く。
わたしが大声を出した理由は、
「お布団を洗濯するのを……忘れちゃってた」
失敗だった。
アカちゃんがお泊まりに来るんだったら、当然ベッドも『ちゃんとしておく』べきだったのに。
情けない。
「ごめんね……アカちゃん」
「な、なにが『ごめんね』なの」
「このベッド、アツマくん臭(しゅう)が残ってる」
こんな状態のベッドで彼女を寝かせたくなかった。けれど、もうどうしようもない。
後悔も反省もなんにもならない。
恐る恐るアカちゃんのほうを見る。
が、
「そんなこと――わたし、一切気にしないけれど?」
と彼女が言ったから、驚愕。
「ど、ど、どうして気にしないの」
うろたえの問いをわたしは発する、が、
「愛ちゃんも、案外分かってないのね」
と……難解なコトバを彼女は発して、笑顔。
× × ×
アツマくん臭を残してしまったダブルベッド。
寝室の入り口から見て、右サイドにはわたし、左サイドにはアカちゃん。
「電気消そっか。日付もそろそろ変わっちゃうし」とわたし。
「そうね」とアカちゃん。
アカちゃんの受け答えに、『しんみり』としたものを感じ取る。
やっぱり、つらいのかな。
わたしとお酒を飲み交わして、アツマくんに慰められ癒やされても、好きな男子(ひと)が離れていってしまったつらさは、簡単には消えてくれない。
返す返す、地球の裏側に行ってしまったハルくんに憤りを覚える。
けれど、『彼のことも分かってあげて』とアカちゃんには言われちゃっているから……彼女へのケアの仕方を迷う。
親友なんだから、心を込めてケアしてあげたいのに。
アカちゃんのココロにぽっかり開いた穴を、わたしが埋め合わせてあげなきゃならないのに。
このままじゃ、ダメな親友よね……と心苦しくなっていたら、
「……愛ちゃん。」
と横から呼び掛けられた。
「……なにかな」
「もうちょっと、そっちに寄ってもいいかしら?」
もっとそばに来て寝たい……ということ。
すぐに、
「いいわよ」
と答えてあげる。
「ありがとう」
アカちゃんが、わたしのすぐ右隣に来る。
肩と肩が触れ合った。
「アカちゃん」
「はい」
「わたしを抱き枕みたいにしたって……いいのよ?」
「それは……行き過ぎだし」
「行き過ぎじゃないわ。あなたはわたしの大親友なんだし、それに今のあなたは悲しい状況に置かれてるんだし」
「うん……。だけれど、愛ちゃんが痛がっちゃうかも、だし……」
「すごいこと言うのね」
「べっ別に、スケベな意味で言ったんじゃないから」
「わかってるわかってる。……抱き枕云々は置くにしても、今夜は好きなだけアカちゃんに甘えてもらいたい。これが、嘘偽りの無い気持ち」
アカちゃんが掛け布団の中に潜り込むのを感じ取る。
「愛ちゃんが甘えさせてくれるの……嬉しい。ほんとうに」
という声が聞こえ、
「これが、愛情というものなのよね」
という声も聞こえてくる。
× × ×
小鳥が鳴く声が聞こえてきた。
アカちゃんは、わたしから少し離れて、ベッド上で身を起こしている。
わたしには、昨夜(ゆうべ)のアカちゃんの感触と体温が、まだ残っている。
彼女と同じく身を起こしているわたしは、『朝からイジワルな親友になっちゃいたい』という気分でもって、
「アカちゃーん」
と呼んで、振り向かせて、
「わたしが寝ながら感じたことなんだけど」
と言って、こんな朝に相応しきスマイルを作って、
「あなたもなかなか、胸が大きいのね」
と、一気に揺さぶっていく。
「!?」とアカちゃんはびっくりして、飛び上がるがごときリアクションを見せて、大き過ぎる驚きのせいで恥ずかしさを少しも隠せず、
「こんな朝から、なにを、なにを言い出すのよっ!?」
と、恥ずかしさいっぱいの顔で、わたしのほうに少し前のめりになって、
「大きいって、なによ!? 相対評価!? 絶対評価!? どっち!!」
わたしは答えてあげない。
顔面が炎上する勢いのアカちゃんは、
「あ、あなたの妹分の女の子のほうが……よっぽど、よっぽど大きいでしょっ」
「あすかちゃん?」
「あすかちゃんよっ」
「もちろん、あすかちゃんが『勝ち』よ」
「……」
「だけど、Bカップなわたしよりも、1段階……ううん、『1段階』じゃ、段階が小さすぎるわよね」
「どうして今朝の愛ちゃんはそんなにエロいの!? け、今朝だけじゃなくって、そもそも昨夜(ゆうべ)このベッドに入ったときから、あなたは……」
「うらやましい」
「うらやましいなんて言わないでよ!! そっ、そーゆーことを気にするのは、中学生時代で終わりのはず……!」
「『大は小を兼ねる』ってことわざ、知ってるわよね?」
「愛ちゃん?!」
「『大は小を兼ねる』のなら、『中』だって兼ねるでしょう。つまりは、大学生が、中学生みたいな要素を含んでいたって――」
「きっ、キレられたいの」
――ゴメンナサイ。