「ねえムラサキくん」
「なに? 茶々乃(ささの)さん」
「長期休暇ももうすぐ終わりだね」
「あー、ホントだな」
「長期休暇も終わりに近づく9月の上旬。
現在時刻は午後3時。おやつタイムな時間。
で、わたしとムラサキくんが居るのは、ムラサキくんのサークルのお部屋」
「ご、ご丁寧に状況説明してくれてありがとう」
「地の文無いから、5W1Hはこうやって明示するしかないんだよね」
「……ひとこと多いよ。茶々乃さんもメタフィクショナルだなあ」
× × ×
「ところでですねムラサキくん」
「?」
「わたし、休み明けに提出しないといけないレポート課題があるの」
「それは大変だね」
「日本近代文学の講義なんだけど。純文学っていうのかな? わたしの大好きな児童文学は扱っていなくって。だから、レポート悩んでるんだよね」
「茶々乃さんは筋金入りの児童文学キャラだもんね」
「……」
「え……ぼく、なんかマズいこと言った」
「ムラサキくん」
「ん……」
「修飾語を使うときは、適切な修飾語を使うべきだと思うよ?」
× × ×
「『森鴎外の小説読んでこい』とか先生が言うんだけど、果てしなく面倒いの」
「読んでこいって言われたんだから、読んでくるべきでは?」
「その理屈も分かるんだけどさー。森鴎外ではレポート書きたくないな~」
「……あのさ」
「どしたのムラサキくん」
「森鴎外ってたしか、アンデルセンの『即興詩人』を翻訳してるよね?」
「どうしてムラサキくんがそんなこと知ってるのかな」
「た……たまたま、なんだけど。
ほら。
アンデルセン、じゃん?
茶々乃さんは児童文学好(ず)きで、アンデルセンには『うるさい』んじゃないの?
鴎外はアンデルセンを訳してるんだから、そんなに苦手意識を持つことも……」
「わかってないっ。ムラサキくんわかってないっ」
「!?」
「もっとわたしのことをわかってくれてると思ってたのに……」
「ななななぜ、急に機嫌を損ねて」
「まず、あなたはアンデルセンの一面しか見ていない!」
「いちめん??」
「今回は地の文無い短縮版だし、文字数の都合で、あなたが如何にトンチンカンなことを言ってるのかは説明できないけど!」
「お、おさえておさえて」
「抑えつけようとしてもムダなんだからねっ!!」
「……ムダなほどに元気いいんだね」