大学3年生になった。
尊敬する戸部アツマさんが卒業し、就職。
やはりぼくが、これからの『MINT JAMS』の主軸になっていかなければならないのだろう。
そういう自覚でもって、サークル部屋を解錠する。
× × ×
例によって紅月茶々乃(こうづき ささの)さんが、サークル部屋に来ている。
こっちのサークルの会員でもなんでもない彼女は、
「どうなの、ムラサキくん??」
「え、どうなのって……なにが」
「新歓の調子だよ、新歓の」
ううっ……。
「口ごもるってことは、うまく新会員を集められてないんだね」
うううっ。
「わたしのサークルの『虹北学園(こうほくがくえん)』は絶好調だよ。どんどん新しい子が来てくれてるの」
煽ってくるねえ……きみも。
あ。
そういえば。
「茶々乃さん。きみ、『虹北学園』の幹部になったんだってね?」
「そうだよ♫」
ニコニコと彼女は、
「『学園長代理』になった」
「それ、どういう役職なのかな」
「まあ、普通のサークルでいう副幹事長かな?」
ふうん……。
でも、それなら、
「重要な役職に就(つ)いてるんだし、他サークルの部屋で油売ってる場合じゃないんでは」
茶々乃さんの時計が一瞬止まった。
図星を突かれて、固まった。
× × ×
プンプンしながら、茶々乃さんが部屋を去っていく。
新年度早々、悪いことしちゃったかな。
いや、悪くはないか。
茶々乃さんと入れ替わりのごとく、4年生の八木八重子(やぎ やえこ)さんが入室してくる。
八木さんは1浪なので、アツマさんと同じ年度の産まれだ。
彼女に、
「八木さんは今年度で卒業できますよね?」
と尋ねてみる。
彼女は若干不機嫌そうに、
「できるに決まってるって」
と返答。
「わたし、学内奨学金もらって大学(ここ)に通ってるんだよ!? 3年間ずっとフル単で来たし、今年度はあまり講義に出席しなくてもいいの」
それはすごい。
「あっ、出席すべき講義が減るっていっても、忙しくないわけじゃないから。むしろいろいろ忙しいし。だから、サークルの主力はムラサキくん、キミだよ」
主力認定されてしまった。
「柱になってよね」
「柱ですか」
「そうだよ、柱。このサークルが倒れないように」
プレッシャーかけるんだもんな。
「八木さんも協力してくれるんですよね?」
「それはどうかなあ」
「そ、そこは拒まないでほしいんですけど」
次に入室してきたのは、2年生の朝日リリカさんであった。
女子ばっかり部屋に来るんだな……。
「ムラサキさん、八木さん、おはよーございます」
「おはよう」とぼく。
「おはようー。元気だね」と八木さん。
八木さんが、
「リリカちゃん、ちょうど今ね、ムラサキくんをイジメてたの」
ええぇ……。
「ひ、ヒドいですっ。イジメられてたんですか、ぼく」
抗議するも、
「ムラサキくーん」
と横目で見てきたかと思うと、八木さんは、
「キミの声ってさ。永遠のボーイソプラノだよね」
ぼ、ボーイソプラノとイジメは、関係ないっ。
関係ないでしょっ。
ですよね??
怒りますよ!?
「あーっ」
と今度はリリカさんが、ぼくの様子を眺めつつ、
「ムラサキさん、なんだか震えてるー」
とか言ってくる……。
「ふ、ふるえてないよ」
「声も震えてる。ふるふるに震えた、ボーイソプラノ」
リリカさぁん……。
「あ、あのさあ!? リリカさんも学年上がったんだから、もうちょっとオトナらしく――」
「ムラサキさーん。お説教する前に、ひとつ」
「へ???」
「最近、なにをお聴きですか?」
「お、お聴き!? それは、ぼくが、聴いてる、音楽!?」
「知りたいです~」
「……。
イエモン。
THE YELLOW MONKEY、とか」
答えてあげたのに、リリカさんはびっくり顔で、
「ムラサキさんって、21世紀産まれなんですよね!?」
「さ、再結成したでしょっ?!?!」