ぼくよりもはるかに背の高い新入生の鴨宮学(かもみや まなぶ)くんが、きょうもサークル部屋に来てくれている。
よかった。
定着してくれそうだ。
「鴨宮くんは、どんな音楽が好きなの?」
長身の鴨宮くんに尋ねてみる。
音楽鑑賞サークルなんだから、好きな音楽を訊いて交友を深めていくのは、ごく自然な流れだろう。
鴨宮くんは、
「ジャズとか、フュージョンとか……好きです」
と答えた。
おー。
「ジャズや、フュージョンかあ」
「はい」
「だったら、『MINT JAMS』っていう、ウチのサークル名の由来もわかったんじゃないの?」
「はい。わかりました。カシオペアのアルバムのタイトルですよね」
さすがー。
「さすがだね。そのとおりなんだよ。けっこう昔のアルバムなんだけどね」
「80年代前半のリリースでしたよね」
「やっぱりよく知ってるんだね。もしかしたら、日本のフュージョンがいちばん盛り上がっていた時期といえるかもしれない」
…知ったふうにぼくは言っているが、日本のフュージョンの盛り上がり云々は、先輩がしゃべっていたことの完全なる受け売りである。
ギンさん、ごめんなさい。
……。ところで実は、きょうは、新入生がもうひとり、部屋に来てくれている。
しかも女の子なのだ。
その名も、朝日リリカさん。
「ムラサキさーんっ」
フレンドリーに、朝日リリカさんが、ぼくに話しかけてきた。
「どうしたの? 朝日さん」
「あ、下の名前で呼んでくれていいですよ」
「…じゃあ、リリカさん。なにか、質問なのかな」
「ハイ質問です。――略さないんですか? サークルの名前」
「え、え、略す???」
「『MINT JAMS』って名前でしょ? 長いですよね?」
「……長いかな」
「長いと思うんですけど。――たとえば、大胆に『MJ』っていう略称を作っちゃうとか」
「――『MJ』って、なんかファッション雑誌っぽいね…」
「そうですね。『JJ』と一文字違い」
「……略称のことは、考えておくよ」
× × ×
リリカさんの音楽的嗜好も早急に知りたかったのだが。
ノック音、である。
また、だれかが、この部屋を訪ねてきたのだ。
新入生ではないと思う。
おそらく……「彼女」だっ。
「やっぱり、茶々乃さんだったか」
「順調? ムラサキくん」
「そっちこそ」
「こっちはもう、ニューカマーが10人以上来てるよ」
「エッそんなに」
「すごいでしょ」
「すごいね」
「ムラサキくんもがんばってよ」
茶々乃さんは、入り口から、部屋のなかへと歩んでいき、
「新顔、ふたり。男女ひとりづつ、か」
「…なーんか、茶々乃さん、値踏みするような顔になってない?」
「心外な。ムラサキくん」
「好奇心があるのはわかるんだけど、ぼくたちのサークルにとっては大事な新入生なんだから、あんまりヘンな眼で見ないでほしいよ」
…とたんに茶々乃さんがム~~~ッとした顔を作る。
「きみって…そんな、面倒くさかったっけ」
「失礼なっ」
「それほど失礼でもないと思って、言ってるんだけど」
「なんて態度なの」
「ブーメラン発言ですか……」
ふと、ぼくは、リリカさんに視線を当てる。
突然来襲してきた茶々乃さんに対して、疑り深い眼を向けているような……そんなような。
「り、リリカさん、ごめんね。ときどき、こうやって乱入してくるひとがいるんだ、このサークル。でも、気にしないで」
焦りながら言うぼく。
しかし――ますます茶々乃さんの存在を気にするように、リリカさんは、
「なんなんですか?? この女子(ひと)」
と不穏なことを言ってしまう。
「――礼儀がなってないね」
リリカさんに直(ジカ)に視線を向けながら、不穏なことばを茶々乃さんが投げ返す……。
腕を組む茶々乃さん。
……茶々乃さんの腕組みをよそに、リリカさんはぼくに顔を向けて、
「ムラサキさん。
彼女とは、どんなご関係で??」