こんにちは。
ぼく、笹田ムラサキ。
この春から、大学2年生。
『MINT JAMS』っていう音楽鑑賞サークルに入っているんだけど、新入生のメンバーができたら嬉しいな…って思っている。
新入生を集めるためには、ぼくもサークルの主力になってがんばらないといけない。
ただ…。
× × ×
ぼくより先に、星崎姫さん(4年)と八木八重子さん(3年)が、サークル部屋に来ていた。
「新しい子、来ないね」
星崎さんが厳しい現実を言う。
「そうですね……。4月になってから、毎日サークル部屋で待機するようにはしてるんですが、この部屋を訪ねてきてくれる子が、いないんです」
ぼくが言うと、
「この部屋で待ってるだけだから、ダメなんじゃないの?」
と、星崎さんにさらに厳しく言われてしまう。
「いつまでも、部屋のなかで待ち続けてるんじゃなくて、少しは外に出ていかないと」
たしかに…。
星崎さんは厳しいけど、正しい。
「持ち歩きできる看板を作りましょうか? サークル名をデカデカと書いて――」
「――どうしてムラサキくんは、わたしにお伺いを立てるわけ」
ぐ。
星崎さんの眼つきが、鋭いっ。
「やると思ったら、じぶんでやんなきゃ。…もっとも、看板なんかよりも、配るビラを作るほうが現実的だとわたしは思うけど」
た、たしかに。
星崎さん、いろいろ、「わかってる」。
「ビラを作るなら協力してあげるよ、ムラサキくん」
言ったのは、八木さんだ。
「助かります、八木さん」とぼく。
「わたし、まだ3年だし。この1年間は、サークルをもり立てていきたいから」
「ほんとうに助かります」
「さっそくだけど」
「はい」
「ムラサキくんには、ビラになるような紙を、調達してきてほしいな」
いきなりの八木さんの指令。
今年度初めての、使い走り…か。
…たとえこれが使い走りだとしても、ぼくが動かないでは、なにも状況は変わらない。好転しない。
「承知しました」
八木さんの指令に応え、部屋の外に出ていこうとする。
――まさにそのとき、
ノック音が、3回聞こえてきた……!!
× × ×
大柄な男子だった。
迫力に圧(お)されてしまったからか、
「1年生……かな?」
と、不用意なことを言ってしまう。
「はい、1年生です」
彼はすんなりと答える。
「そ、そうだよね、ふつう、そうだよね…」
不意の訪問で、動揺してしまっているんだろうか。
余計なことを、言ってしまっている気がする。
「ムラサキくん! 名前を訊かないと!」
後ろから、星崎さんに注意される。
そうだ。新入生勧誘らしいことを…しなければ。
「…ぼくは笹田ムラサキっていうんだけど、きみの名前を、教えてくれないかな」
大柄の彼は、
「カモミヤ、といいます」
「カモミヤくん、かぁ。漢字で書くと、どうなるの?」
「鴨南蛮の鴨に、宮崎県の宮」
「…ヨシ。把握した」
「ほんとに把握してる?? ムラサキくん」
星崎さんの容赦ないことばが飛んでくる。
しましたから、把握。
「苗字だけじゃダメよ、下の名前も訊かないと」
わかってますよ。
いちいち細かいんですね、星崎さんって。
「名前は、マナブです。ふつうに学問の学で、学(マナブ)」
ぼくが訊く前に、彼のほうから言ってくれた。手間が省けた。
「鴨宮学(かもみや まなぶ)くんだね。ようこそ、ぼくたちのサークルに。…ここは、音楽鑑賞がメインなんだけど、どんな音楽が好きだとか、ある?」
「ムラサキくーん」
「な…なんですか、八木さん」
「彼の音楽的嗜好については、後回しでいいでしょ」
「!? ここ……音楽鑑賞サークルなんですよ??」
「身長訊いてよ、身長」
身長ッ!?
なぜに。
「もしかしたら戸部くんより背が高いかもしれないじゃん。わたしは、ぜひとも彼のパーソナルデータが知りたいなーって」
「知って、どうするんですか。八木さん…」
「彼が戸部くんより長身だったら…」
「だったら…??」
「たっのしーいじゃーーん♫」
「八木さん、言えてる言えてる。戸部くんの数少ないアドバンテージが、消えてなくなるし」
星崎さんが、同調。
……なんなんだ、このふたりは。
アツマさんの居ないあいだに、好き勝手に……!!