【愛の◯◯】コンプレックスを突きすぎると堪忍袋の緒も切れる

 

笹田ムラサキです!!

 

× × ×

 

2年生になって、サークル活動も2年目。

 

サークルを引っ張っていくんだ、という「自覚」を持たないといけないな……。

 

新入生も、入ってきたのだ。

 

身長180センチ以上の圧倒的なスケールを誇る鴨宮学(かもみや まなぶ)くん。

ジャズやフュージョンを好む彼。

ジャズやフュージョン以外にも、様々なジャンルの音楽に興味を示していて、音楽的好奇心は果てしなく旺盛だ。

 

女子も入ってきた。朝日(あさひ)リリカさんだ。

『わたし、ポップスやロックしか分かんないんですよ~~』と言いつつも、鴨宮くんに負けず劣らず好奇心旺盛で、幅広い音楽ジャンルに興味を示してくれている。

……どうやら毒舌キャラっぽいのが、玉にキズだが。

 

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さて、『虹北学園(こうほくがくえん)』という児童文学サークルに、ぼくはきょう、お邪魔している。

紅月茶々乃(こうづき ささの)さんに、半ば強引に連れてこられた……というのが実情ではあるが。

 

「賑わってる? 『MINT JAMS』は」

絵本が大量に敷き詰められた書棚を背にして、茶々乃さんが訊いてくる。

「まあまあ賑やかだよ。新入生も、それなりに入った」

答えると、

「朝日リリカさんとか……騒がしそうだよね」

眉間にシワを寄せながら、彼女が言ってくる。

寄せないで。

「ムラサキくん。ムラサキくんが、がんばらなきゃいけないんだよ。アツマさんは就活中で、サークルになかなか来られないでしょ??」

「そうだね…。ほんとうにそうだ。アツマさん、すっごく忙しそうだ」

「リーダーシップ、リーダーシップ」

「…まだ2年だけどね」

なにをいってるのっ

「ウワッ」

「まだ2年生だとか……ぜんぜん関係ないよ」

 

いつもながらの……茶々乃さんの、ド迫力。

 

「もうすぐ、ここに、会員のひとが来るから」と茶々乃さん。

「どんなひと?」とぼく。

「わたしより、はるか年上の、2年生」

「――えっ?」

 

× × ×

 

辻源治(つじ げんじ)さんというお方らしい。

社会人を経験してから、この大学を受験したらしい。

茶々乃さんよりはるか年上とは、そういうことのようだ。

 

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10分後に辻源治さんはやって来た。

 

なるほど。貫禄がある…。

 

「茶々(ささ)ちゃん、この子が、ムラサキくんかぁ」

座るぼくを見下ろしつつ、辻源治さんは言う。

茶々乃さんのこと…「茶々(ささ)ちゃん」って呼ぶんだ。

仲、良いんだな。

 

「そうですよ源治(ゲンジ)さん。紛れもなく彼がムラサキくんです」

右手の人差し指でぼくを示しながら、茶々乃さんが言う。

…ニコニコし過ぎじゃない?

ぼくをなんだと思ってるのやら…茶々乃さん。

ちょっと哀しいよ。

 

茶々乃さんのぼくの扱いかたに、やるせない思いを抱き始めていたら、

「そっかそっかあ」

と言いながら、辻源治さんが、椅子にどっかりと腰を下ろして、

それから、

「想像してた通りだ。

 高校生にしか、見えないね、彼

と……茶々乃さん目がけて、残酷にも、指摘してくる……。

 

「ですよねーっ。高校生どころじゃなくって、中学2年生って言われても、ぜんぜん違和感ないんですよねーっ」

 

ぼくのコンプレックスを……こうまで……っ!!

 

「――ムラサキくんは、なんで震え始めてるの??」

 

わかんないの!? 茶々乃さんっ。

これって、イジメみたいじゃないか。

寄ってたかって、ぼくのコンプレックスを、突っついてきて……。

怒るよ!? ぼくだって。

 

ガタッ、と立ち上がる。

向かいの席の茶々乃さんを、見下ろす。

そして彼女を、じっと睨む。

 

「――どうしたっていうの」

ぼくの感情に気づく素振りもない茶々乃さん。

 

大きく、息を吸い、

…出る!!

と叫んで、出口に向かう。

 

出口のドアノブに手をかけると、辻源治さんが、背後から、

ボーイソプラノだね

と追い打ちをかけてきた…。

 

× × ×

 

茶々乃さん……。

いろいろと、ヒドいよ。

自覚、してよね!?