笹田ムラサキです!!
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2年生になって、サークル活動も2年目。
サークルを引っ張っていくんだ、という「自覚」を持たないといけないな……。
新入生も、入ってきたのだ。
身長180センチ以上の圧倒的なスケールを誇る鴨宮学(かもみや まなぶ)くん。
ジャズやフュージョンを好む彼。
ジャズやフュージョン以外にも、様々なジャンルの音楽に興味を示していて、音楽的好奇心は果てしなく旺盛だ。
女子も入ってきた。朝日(あさひ)リリカさんだ。
『わたし、ポップスやロックしか分かんないんですよ~~』と言いつつも、鴨宮くんに負けず劣らず好奇心旺盛で、幅広い音楽ジャンルに興味を示してくれている。
……どうやら毒舌キャラっぽいのが、玉にキズだが。
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さて、『虹北学園(こうほくがくえん)』という児童文学サークルに、ぼくはきょう、お邪魔している。
紅月茶々乃(こうづき ささの)さんに、半ば強引に連れてこられた……というのが実情ではあるが。
「賑わってる? 『MINT JAMS』は」
絵本が大量に敷き詰められた書棚を背にして、茶々乃さんが訊いてくる。
「まあまあ賑やかだよ。新入生も、それなりに入った」
答えると、
「朝日リリカさんとか……騒がしそうだよね」
眉間にシワを寄せながら、彼女が言ってくる。
寄せないで。
「ムラサキくん。ムラサキくんが、がんばらなきゃいけないんだよ。アツマさんは就活中で、サークルになかなか来られないでしょ??」
「そうだね…。ほんとうにそうだ。アツマさん、すっごく忙しそうだ」
「リーダーシップ、リーダーシップ」
「…まだ2年だけどね」
「なにをいってるのっ」
「ウワッ」
「まだ2年生だとか……ぜんぜん関係ないよ」
いつもながらの……茶々乃さんの、ド迫力。
「もうすぐ、ここに、会員のひとが来るから」と茶々乃さん。
「どんなひと?」とぼく。
「わたしより、はるか年上の、2年生」
「――えっ?」
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辻源治(つじ げんじ)さんというお方らしい。
社会人を経験してから、この大学を受験したらしい。
茶々乃さんよりはるか年上とは、そういうことのようだ。
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10分後に辻源治さんはやって来た。
なるほど。貫禄がある…。
「茶々(ささ)ちゃん、この子が、ムラサキくんかぁ」
座るぼくを見下ろしつつ、辻源治さんは言う。
茶々乃さんのこと…「茶々(ささ)ちゃん」って呼ぶんだ。
仲、良いんだな。
「そうですよ源治(ゲンジ)さん。紛れもなく彼がムラサキくんです」
右手の人差し指でぼくを示しながら、茶々乃さんが言う。
…ニコニコし過ぎじゃない?
ぼくをなんだと思ってるのやら…茶々乃さん。
ちょっと哀しいよ。
茶々乃さんのぼくの扱いかたに、やるせない思いを抱き始めていたら、
「そっかそっかあ」
と言いながら、辻源治さんが、椅子にどっかりと腰を下ろして、
それから、
「想像してた通りだ。
高校生にしか、見えないね、彼」
と……茶々乃さん目がけて、残酷にも、指摘してくる……。
「ですよねーっ。高校生どころじゃなくって、中学2年生って言われても、ぜんぜん違和感ないんですよねーっ」
ぼくのコンプレックスを……こうまで……っ!!
「――ムラサキくんは、なんで震え始めてるの??」
わかんないの!? 茶々乃さんっ。
これって、イジメみたいじゃないか。
寄ってたかって、ぼくのコンプレックスを、突っついてきて……。
怒るよ!? ぼくだって。
ガタッ、と立ち上がる。
向かいの席の茶々乃さんを、見下ろす。
そして彼女を、じっと睨む。
「――どうしたっていうの」
ぼくの感情に気づく素振りもない茶々乃さん。
大きく、息を吸い、
「…出る!!」
と叫んで、出口に向かう。
出口のドアノブに手をかけると、辻源治さんが、背後から、
「ボーイソプラノだね」
と追い打ちをかけてきた…。
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茶々乃さん……。
いろいろと、ヒドいよ。
自覚、してよね!?