ども。
久保山克平(くぼやま かつひら)と申します。
鳥取県出身。
某大学4年生。
大学院進学希望。
昔からの悩みは……メタボな体型……。
『漫研ときどきソフトボールの会』というサークルの幹事長を務めていて、曲がりなりにもソフトボールでからだを動かし、汗を流しているのですが、それにもかかわらず、ぽっちゃりな肉体が、改造できておりません。
そんな宿命なのか……。
無念。
× × ×
週刊少年チャンピオンをサークル部屋で読んでいた。
そしたら、横から、副幹事長の有楽碧衣(うらく あおい)が、
「熱心ね」
と声をかけてくる。
「おれは…チャンピオンを読んでるだけだが?」
「すっごく集中して読んでるじゃないの。時間を忘れてるみたい」
「や、時間を忘れてる、って」
「久保山くんは漫画が心から好きなのね」
「……」
有楽は不満げに、
「なによ、その沈黙。せっかくホメてあげたのに」
「す、すまん」
まったくもう……と言いたげな、細目の視線で、
「久保山くん。」
「……なんだ?」
「あなたは、いつまで幹事長をするの??」
お、おお。
痛いところを突かれている感じがするぞぉ。
「4年でしょ?? あなたは、就活じゃなくて大学院試験だから、わたしよりも余裕があるのかもしれないけど。…でも、いつまでも幹事長に君臨するわけにもいかないでしょ」
「うん……。考えてみれば、考えてなかった」
「わたしは副幹事長だけれど」
「うむ…」
「ただいま絶賛就活中だし、副幹事長の地位をだれかに譲ってあげてもいいかなー、とか思ってる」
「…そうなんか」
「そうなんか、じゃ、ないからっ! マジメに考えなさいよ、久保山くんっっ」
……。
お説教モードから逃げるように、部屋のソファでずっと爆睡している日暮真備(ひぐらし まきび)に眼を向ける。
日暮真備。
サークル部屋に漫画を読みに来てるんだか睡眠をしに来てるんだかわからない、とても厄介な同学年の女子だ。
ちなみにコイツは岡山県倉敷市出身であり、おれの地元と距離がビミョーに近い。そこも厄介ではある。
とりあえず。
とりあえず、真備のソファまで寄って、サークル部屋備え付けの金属バットで床をコン、と叩き、真備を起こす。
「むにゃ」
「だらしない。真備、だらしないぞ、おまえ」
「んー、もしかしてクボ、新入生が入ってくるシーズンだから、いつもより怒ってんの??」
「や、真備はいつでもだらしないだろ。ナマケモノで…」
「ナマケモノ認定、ありがとう」
「おい」
「あのさあ。わたしさ、さっきのクボと碧衣のやり取り、寝ながら耳に入れてたんだよ」
「地獄耳が」
「そだねー」
「く……」
「――幹事長は、据え置きでいいと思う。問題は、副幹事長、か」
それな。
副幹事長継承問題…か。
…。
待てよ。
「真備」
「なあに、クボ」
「おまえ今年ヒマだろ」
「なにを言いますか、わたしだって法科大学院への試験準備がある」
「でも相対的にヒマだろ? 就活する有楽や風子に比べたら」
「…つまり、碧衣から、副幹事長を引き継げと??」
「…ああ。負担が相対的に軽い大学院進学コンビで、会を運営していくんだ」
「なすりつけっぽくない? 久保山くん。時間の余裕が真備にあるとしても……」
有楽……。
「有楽……真備の肩を持つか」
「この場では、持つ」
「なんで」
「だって。下の3年生のだれかに引き継いでもらう、って線もあるじゃない。たぶん、そっちのほうが、現実的」
それも……そうか。
有楽の正論。
なぜか、有楽は、真備をいたわるような口調で、
「わたしは……真備にも、いろいろあるんだと思うよ」
「いろいろある……って??」
「久保山くんも勘が鈍いよね。もっと、シャキッとしないと」
ますます、わからん。
「いろいろある」らしい日暮真備は、ソファに身を委ねて……黙っている。
なぜだろう。
いまの真備……ちょっとだけ、センチメンタルな雰囲気だ。