オッス、おれアツマ。
きょうは、久しぶりに学生会館へ。
目的地は、もちろんじぶんのサークル。
音楽鑑賞サークル『MINT JAMS』の扉を開ける。
中を見たら、1年生男子と1年生女子がひとりずつ、であった。
「こんにちは、アツマさん」
おれに近寄り挨拶してくれたのは、鴨宮学(かもみや まなぶ)くんだ。
身長がおれよりも高い期待の大型ルーキーである。
「やあ、鴨宮くん」
挨拶を返してから、おれは、
「また背が伸びたんじゃないのか?」
と指摘。
指摘された鴨宮くんは、
「エッ、そうですかね」
と不意を突かれたようなリアクション。
「成長期なんだと思うよ」
とおれ。
いかんなあ。
鴨宮くんを困惑させてしまうのは、いかん。
…なので、
「いま流れてるジャズの曲、上原ひろみだっけ??」
と話題を転換させる。
すると鴨宮くんは即座に、
「いいえ、山中千尋さんの曲です」
…やべっ。
× × ×
「無学なのが表に出ちまった。恥ずかしいな…」
そう独りごちながら、椅子に腰掛ける。
おれの数メートル前方には、ルーキー女子の朝日リリカさんが。
リリカさんも椅子に座っていて、某音楽雑誌を熱心に読んでいる。
リリカさんが雑誌から顔を上げた。
すかさず、
「リリカさん。ムラサキ、きょうは来てないんか?」
とおれは訊く。
「来てませんねー。わたしと学くんだけ、です」
そうかー。
「でも、今週まったくサークル部屋に来てないとかじゃ無かろう? ムラサキ」
「そうですね。むしろ皆勤賞でしたよ、ムラサキさん。月曜から金曜まで、欠かさず来てた」
「おー、さすがはムラサキだ」
「…アツマさんは、」
「? なんだい」
「アツマさんは…やっぱし、ムラサキさんを、じぶんの後継者にしたかったり、なんですか??」
えっ。
後継者ってなに。
「しょ…将来有望なのは間違いないけど、あいつを後継者に……とか、そういうことは思ってない」
「――そうですか。」
薄い微笑を浮かべるリリカさん。
なんぞ?!
「ムラサキさんって――凝(こ)ってますよね」
「えっ!? そりゃどういうこと?? リリカさん」
「『歌詞』に凝ってるんですよ」
「『歌詞』……?」
「スピッツっていうバンドはご存知ですよね?」
「……知らないわけない」
「ムラサキさん……最近、90年代のスピッツの楽曲の『歌詞分析』に、やたら凝ってるみたいで」
「ほ、ほほぉ」
「――なんか、気がかりです」
「……きみが、ムラサキのことを、気がかりだと?」
「はい。」
「……なんで?」
「わたしですね、」
「……」
「音楽に対してオタクになるのは、ちょっと違うと思うんです」
「……そんなにオタクだろうか、ムラサキは」