「アッ、麻井さんだー」
キャンパス内を歩行していたら、土浦さんに声をかけられた。
立ち止まってアタシを見ているのは、土浦さんだけではない。
彼女の隣に、水戸くんという男子がいる。
アタシ・土浦さん・水戸くんは学年が同じ。
そんでもって、土浦さんと水戸くんはカップルである。
化石のような表現を使って言うならば、「アベック」だ。
……それはそうとして、
「偶然だね。キャンパスが広いから、なおさら」
と、アタシは土浦さんに言ってみる。
「ほんとだね~~」
と土浦さん。
水戸くんが、アタシに歩み寄ってきて、
「麻井さん。今日も、ちっちゃいねえ」
と、無遠慮に言ってくる。
が、なぜだか水戸くんに対しては、怒る気も起こらない。
『どうでもいいから』だろうか。
土浦さんが、
「麻井さんは東京に帰省しないの?」
と訊いてきた。
「するよ。お盆になったら」
と答える。
「マジメなんだねえ」と土浦さん。
なにかな、その含みのあるコメントは。
――まあいいとして、
「土浦さんと水戸くんは地元なんだから、実家に行くにしても、『帰省』ってわけじゃないよね?」
とアタシは言う。
「そうだね」
と土浦さん。
さらに、
「わたしの出身高校、名前にわたしの名字が入ってるし」
と余計なことを付け加える。
その発言、結構ギリギリなんだよ……と思いつつ、溜め息。
そしたらば、
「麻井さん。きみってさ――」
と、今度は水戸くんのほうが口を開いて、
「東京に帰ったら――、会うヒトとか、いるのかな」
?
会うヒト?
訝しみつつも、
「会うことになってる友人なら、いるけど」
と、とりあえず言っておく。
そしたらば、
「そのお友達って――たぶん、女の子だよね?」
と水戸くんは。
不穏な空気が背中にまとわりつき始めてくる。
不穏ながらに首肯したら、
「女の子の、反対は??」
んっ……。
「ちょっとちょっと!! 水戸くん、あまりにも遠慮がなさ過ぎるよっ」
すぐさま、土浦さんが、自分の彼氏に怒った。
「わたしがもうちょっと気が強い性格だったら、水戸くんの頭を叩いちゃってるよ!?」
「叩く??」と水戸くん。
「叩く。」と土浦さん。
「叩く道具がなかったら??」と水戸くん。
「道具ぐらいなんとでもなるっ。いま問題なのはねえ、水戸くんの、無遠慮と無神経」
「そんなにイキりたつものかなぁ」
「そこが無神経!!」
× × ×
下宿の部屋に戻る。
ダイビングのようにベッドに飛び乗る。
それから、うつ伏せから仰向けになる。
背中をペッタリとベッドに引っ付ける。
そしてそれから、アタシが天井に向かって呟いたコトバは、
「カップルって……楽しそうで、いいな」
だった。
このベッドで。
先日。
アタシは。
とある、突拍子もない夢を……見てしまった。
突拍子もない夢の、登場人物。
夢の中で、アタシの前に現れた、年下のオトコ。
ソイツは……。
「――カンが良くて、長らく愛読されてる当ブログの読者さんなら、わかるかな」