【愛の◯◯】お母さんも麻井も追い打ちをかけないで!!

 

きのうのショッキングな光景があたまから離れない。

 

早稲田。

篠崎くん。

女の子連れ。

 

彼はとっても、連れの女の子と、仲睦まじそうに……。

 

彼女も……早大生?

やっぱり、篠崎くん、あの子と……こ、交際してるってこと、なのかな。

 

なのかな、なのかな。

 

夏だけど、彼にも「春」がやって来た、って、感じ??

 

× × ×

 

混乱しながら朝ごはんを食べる。

 

「――ごちそうさまっ」

味があんまり分かんないまま、食べ終えてしまう。

 

食器を流しに持っていく。

 

…お皿を拭いていたお母さんと、眼が合った。

合ってしまった。

 

「きょうのしぐちゃん――、あわてんぼうさん??」

お母さんが言う。

「あ…あわてんぼうさんって、なに」

「しぐちゃん」

「……」

「早口になってるわよ♫」

「よ、よけいなおせわっ」

「あらら~~♫」

 

この夏最高度の、意味深な笑い顔を見せて……お母さんは、

 

「もしかしてしぐちゃん、好きなヒトでもできた??

 

とショッキング発言。

 

「い、いないっ、いないよっ、そんなヒト、ぜったいに、いないっ」

水道の水を出しながら、私は大混乱に陥る。

 

「そんなにテンパっちゃうってことは――もう、つきあい始めてるとか♫」

 

…なんでそうなるの。

 

食器!! 洗っといて

素っ頓狂な声を出して、ダイニングキッチンから逃げようとする。

 

しかし、追い打ちのように、

かわいい~~♫ 今のしぐちゃん、中学2年生に戻ったみたい♫♫

と言われてしまう……!

 

…私は大学2年生だよ。

お母さんっっ。

 

× × ×

 

ベッドに座り、ため息を何度もついてしまう。

 

恋人が私にできたわけじゃない。

恋人ができたのは、篠崎くんのほう。

 

…そうなんだと思う。

やっぱり、「あの子」は、篠崎くんの彼女で間違いないんだ。

 

 

……不本意だけど。

「さみしさ」が無いと言えば、ウソになっちゃう。

 

篠崎くんが遠ざかっていくみたいに。

 

今の篠崎くんは、高校時代の篠崎くんじゃない。

 

早稲田に進学して、また新たなる青春を……謳歌し始めているんだ。

 

私のことなんか……もう、気にも留めないのかも。

 

× × ×

 

気づけば、電話をかけていた。

だれに?

――麻井律に。

 

× × ×

 

「――お盆には、帰省してくるんでしょ、麻井」

『うん』

「じゃあ、私の家に来なよ」

『そのつもりだったけど』

「聴かせて、土産話を」

『土産話って』

麻井…スマホ持ちながら苦笑してそう。

『いちおう関東地方なんですけどね、アタシの大学』

「か、関東といっても、北関東じゃん??」

『おー、北関東をバカにする気か、甲斐田は』

「う」

『アンタらしからぬ不用意発言、ありがとう』

 

…麻井ペースだ。

 

『そもそも、このタイミングで電話かけてきたの、なんで?』

 

核心を突く麻井。

 

……どうしよう。

黙りこくるわけにもいかないし。

 

「ちょ、ちょっとね、予想外なことがあってさ。あはは」

 

中途半端に言ってしまう私。

 

『予想外?』

 

「……」

 

『なにがあったの。アンタの身長が縮んだりしたの』

 

「そ、そんなわけない」

 

『なら、胸が大きくなって、ブラジャーが合わなく――』

ととと突拍子もないっっ

『――だよね。今のは、ほんのジョーダン』

「麻井……あんた、スケベ?!」

『スケベじゃないよ。でも、勘ぐりたくもなる』

 

……次になにを言われてしまうのか。

スマホを耳にあてたまま、身構える。

 

『予想外っていうと、思い当たるのは――』

「……のは???」

『――篠崎だな』

 

一発回答!? どうして!??!

 

スマホ目がけて私は叫ぶ……!

 

『あわてなさんな』

 

「あ、あわてるよっ、あさいっ」

 

『篠崎がらみだけど、アイツに告白されたわけではない。――でしょ?』

 

「なんでそんなにカンがさえわたってるのっ、どーゆーのうさいぼう!??!」

 

『だから、落ち着きなさいってば』

 

「あ、あ、あさいっ」

 

『しょーがない子だな』

 

「……」

 

『コドモだね。大人びた外見とは、真逆』

 

「……」

 

『大人なルックスと抜群なスタイルが、台無しだよ』

 

スマホを持つ手が震え通し。

落とすかも。

 

『――把握したよ。

 篠崎に彼女ができたことを――知ってしまった、と』

 

自然に手からスマホが落下した。

 

 

 

『お~い、しぐれ~~、気は確かか~~』

 

……スマホをようやく持てた私は、

「……なんで、下の名前で呼んだの?」

『アンタがなんにも喋んないから』

「ふ、不注意で、スマホ落っことしただけっ」

『なるへそ』

「麻井……」

『……。

 しぐれの思春期、まだまだ終わりそうにないね』

 

 

……腹立つ。