【愛の◯◯】音楽と野鳥図鑑と愛(いと)しのぬいぐるみと、ついでに彼氏のミヤジ

 

土曜日。

ミヤジの部屋。

持ち込んだ『ホエール君』のぬいぐるみを、フニフニといじっているわたし。

野鳥図鑑に眼を凝らしていたミヤジが、ふと顔を上げて、

「楽しそうだな……あすか」

「だってホエール君かわいいし」

「……子供っぽい気も、するが」

 

む~~っ。

 

「子供っぽくないよっ!! バカミヤジ」

「ば、バカを付けるな」

「わたしのほうがあんたより誕生日早かったでしょ!?」

「ん……」

「そうだよね!? 早いよね!?」

「……」

「あんたの誕生日の詳細については後回しにするとして。

 わかってほしいんだけど。子供っぽく見られたくないってこと」

気まずそうにミヤジは、

「わ、わかったよっ。子供扱いは、しない……」

「よろしい」

そう言って、わたしは笑ってあげる。

赦(ゆる)しのスマイル。

 

× × ×

 

「にしても……なんなんだ、そのぬいぐるみは」

「ホエール君だよ。この場で名前、憶えてあげて」

「憶えられるかなあ」

若干戸惑いのミヤジに構うことなく、

「吠えてるクジラ、つまり『吠える』『ホエール』だから、『ホエール君』なのっ」

と解説。

だけど、

「ダジャレかなんかかな」

と、ミヤジは期待外れのリアクション。

「あんたってさ、野鳥には執念を燃やすけど、海の生き物には、いかにも無関心そうだよね…」

と言うわたし、だったのだが、

「そうでもない」

と否定されてしまう。

「生き物同士は、つながってるから。海の生き物にだって、関心はあるし、知識をつけたいとも思ってるし」

ホントなの、それ。

それと。

「ミヤジ。なんであんた理系を選ばなかったの」

投げてみるしかない素朴な疑問。

「学問と趣味は違うから」

疑問をキャッチしたミヤジから返ってくる、答えという名のボール。

あまりにも無難すぎる答え。

つまんない。

わたしは床からベッドに座る場所を移す。

愛(いと)しいホエール君を、お腹でぎゅうううっ、と抱きしめる。

それから、

「ミヤジ。わたし音楽聴くから」

「聴くのなら、あんまり音量でっかくしないでくれよ」

つまんないことばっかり言うんだからっ。

「ヤダ。でっかい音で聴く」

「ぎゃ、逆ギレみたいに…」

逆ギレじゃないもん。

 

すうっ、と立ち上がる。

ふたたび床に腰を下ろし、丸テーブルを挟んでミヤジと向かい合う。

そして彼が読んでいる最中の野鳥図鑑の上にホエール君ぬいぐるみを乗っける。

「ど、読書妨害やめれ」

「ミヤジく~~ん。

 ホエール君といっしょに、音楽鑑賞しようね~~」

「強制……??」

「強制」

大きな溜め息。

彼のその大きな溜め息の影響で、わたしはさらに攻撃的になって、

野鳥図鑑にも、音楽、聴かせなきゃねえ

「……意味不明瞭な」

「不明瞭でぜんぜんけっこう」