【愛の◯◯】誘われたり 誘いに乗ったり

 

眼の前には期間限定メニューのブルーベリーパフェ。

ブルーベリーパフェを食べながら、真向かいのミヤジと話す。

 

「あすか」

「…なぁに」

「美味しいか? ブルーベリーパフェ」

「おいしーよ」

「それは良かった」

「あんたの奢(おご)りで食べてるから、なおさら美味しい」

「……」

 

パフェをほぼ食べ終えて、わたしは、

「ミヤジもなにか食べればいいのに」

「僕、そんなに甘党じゃないんだ」

「えー。このカフェテリアのメニュー、スイーツばっかりじゃないんだよ?」

「…そもそも、腹が減ってない」

 

そうですか。

 

――カフェテリアとは、わたしの大学のカフェテリアのこと。

ミヤジのほうから連絡を寄越(よこ)してきた。――で、わたしの大学のキャンパスで落ち合った。

 

夏休み中ゆえ、やや閑散のカフェテリア。

 

「なあ…あすか」

「? どうしたの」

「おまえ……僕と話しながら、ずーっとパフェを見てないか?」

 

う……。

 

「僕とじゃなくて、パフェと会話してるみたいだ」

 

ぐ……。

 

「き……気のせいだよ」

「ほんとうか??」

 

わたしはテーブルを両手のひらで叩いた。

 

ムシャクシャして、やっちゃった。

 

「び、ビックリさせんなよ、あすか」

「ミヤジ……。さっさと用件を言ってよ。いちばん言いたいことは真っ先に言っちゃうのが、本道(ほんどう)ってもんでしょ」

空になったパフェのなかでスプーンをくるくる回し、

「ほら。早く」

とわたしは促す。

 

「じゃあ、言うけど。

 今週の土曜日、僕の大学のキャンパスでイベントがあるんだ」

「イベント?? どんな」

「小規模な音楽フェス」

 

えっ、マジ。

 

「えっ、マジ」

「マジだよ。アマチュアバンド主体だけど」

 

タイムテーブルをミヤジは差し出してくれる。

 

「メジャーのバンドも来るんだ」

「もしかしてあすか、このバンド知ってたりする?」

タイムテーブルのとあるバンド名を指差すミヤジに対して、わたしは、

「名前だけは聞いたことあるかなあ。令和のロックにわたしは疎いし」

「令和のロック……。」

「90年代と00年代のバンドが好きなの」

「ふうん……。」

 

ミヤジの喉ぼとけのあたりをわたしは見つつ、

「――あんたはどうなの?」

「どうなの、って」

「どんな時代の音楽が好きなの??」

「んん……。

 ひとつの時代を集中的に掘り下げてはいないけど……。

 最近よく聴いてるのは、ブルーハーツ

 

エーッ。

 

「――ずいぶん古典的なんだね、あんた」

「古典的……なのか?」

「わたしは――、ブルーハーツより、ハイロウズだな」

「へえぇ……。理由は??」

「活動期間が1995年から2005年だから」

「……なんじゃそれ」

「90年代と00年代大好きキッズだし、わたし」

「いや、キッズって」

キッズはキッズなの!! わかってよ」

 

× × ×

 

誘われた……からには。

 

「わかったよ。行くよ。27日の土曜だよね? あんたの誘い、乗ってあげる」

「了解」

「……ちゃんとわたしについてきてよ。ミヤジ」

「え。どういう意味だ?」

「空を飛んでる鳥に気を取られて、迷子になったりしないでよ??」

「はぁ??」

「野鳥大好き人間じゃん、あんた。野鳥観察界隈の期待のホープなんでしょ!?」

「だ、だれも言ってない、僕のこと、期待のホープだなんて」

「わたしが言ってるんじゃん」

「ぬなっ……」

 

…それにしても。

 

「――わたしさ、」

「?」

「たぶん、初めて。

 男の子とふたりで――ライブを観るのって」

 

ようやく。

わたしは。

ミヤジの顔面を――見ることができた。

 

 

『……』

 

 

お互いに黙りこくる時間が――産まれてくる。