「あすか、面白そうなもの読んでるわね」
「『杜の都の六大学』って本だよ、おねーさん」
「仙台六大学野球のことが書かれてるんでしょ」
「ズバリだよおねーさん」
「東北福祉大学とか」
「そう!」
「え、そこは大魔神・佐々木主浩じゃないの、ベイスターズファンのおねーさんとしては」
「あっ、わすれてた」
「おっちょこちょいだね、案外」
「まあ、他にもベイスターズ関係者をあの大学は輩出してるんだけど……」
「なんでコトバ濁すかな」
「濁してないわよ、あすか。いろいろあったよね、ってだけ」
「…うん。なんとなく察した」
「さすがはあすかの洞察力だ」
「照れちゃうな~」
× × ×
「あすか、『PADDLE(パドル)』の最新号、見せてくれないかしら?」
「いいよ。ちょっと待っててね」
「はい、どーぞ。おねーさん」
「ありがとう。
……フムフム。
毎号のように映画特集があるわね、あなたたちの雑誌は」
「結崎(ゆいざき)さんが詳しくて」
「わたしとは真逆なのね。映画、まったく観ないし。
だけど、結崎さんの書いてる映画記事のおかげで……作品情報だけは少しずつインプットされてきてる」
「映画館、苦手? おねーさん」
「ぶっちゃけ」
「配信やビデオソフトで観るのはどうなの」
「…たぶんこう言ってるんでしょ?? 結崎さんは。
『映画は映画館で観るべきだ』
って」
「よくわかったね。彼の口癖なんだよ、しょっちゅう『映画は映画館で~』って言ってるの」
「あすかも映画館に行く機会増えたんでしょう」
「増えたー」
「映画が観られるお金で本を買っちゃうからなー、わたしは」
「それだけ読書家ってことなんじゃないの?」
「どうかしら、それは」
「えーっ、謙遜しないでよぉ」
「謙遜するわよぉ~、あすか」
× × ×
どうもアツマです。
上記のような、愛とあすかのやり取りを――ジッと眺めていたわけなんですが。
違和感が、2点。
・愛があすかを呼び捨てにしている
・あすかが愛に対しタメ口になっている
この2点が、いつもと違ーう。
愛は、いつもは「ちゃん」付け。
あすかは、いつもは敬語。
なぜ本日に限って、こんなイレギュラーなコミュニケーションが為(な)されているのか……という疑問も膨らんでくるが。
……かつても、こんな日が、あった。
「おい」
仲睦まじい2人に、声をかけてみる。
振り向く2人。
おれは、
「『呼び捨て&タメ口DAY』なのかよ、おまえら」
と言う。
クスクスと笑っている2人。
なにがおかしい。
愛が、笑いをこらえながら、
「アツマくんのネーミングセンス、もうちょっとどーにかなんないの。『呼び捨て&タメ口DAY』って」
と言ってくる。
バカにする気か。
あすかも、
「たしかに、おねーさんは呼び捨てで、わたしはタメ口だよ?? だけど、無理やり『名前を付ける』必要もないじゃん。お兄ちゃんは頭悪いな~~」
と。
頭悪いな~~とか、ひとこと多いぞ、妹よ。
それにしても、
「呼び捨てとタメ口になるキッカケは、なんなんだよ?」
…愛は笑って、
「定期的に、なりたくなるのよ」
は??
定期的違うだろ、完全に不定期だろ。
「定期的に呼び捨てとタメ口になれば、お互いの親睦もよりいっそう深まるし」
だから、定期的じゃないですよね!? 愛さん。
「お兄ちゃんってさ」
今度は、あすかが言う。
「女子のコミュニケーションのこと、なーんにもわかってないよね」
……。
「男子なんだから……しかたねーだろ」
「しかたなくないっ。お兄ちゃんの努力不足」
「どうやって、努力しろと……」
「あのさ」
「……なんだよ」
あすかは、闇深(やみぶか)い顔になって、
「明日から、3連休でしょ。
わたしたち3人で、ショッピングしてみない??」
はぁ!?
「3人、って、おれとおまえと愛で!?」
「そうよアツマくん」
横から入ってきた愛が、
「ひたすら、わたしとあすかちゃんについてくるの。それだけでいいんだから。そうやって、女子のコミュニケーションに理解を深めてよ」
と、強引に言い、
「それでいきましょう、あすかちゃん」
と、おれの妹に笑いかける。
「当日のスケジュールは任せてください、おねーさん」
とあすか。
愛は、あすかを真似るように、黒々とした笑顔になって、
「アツマくん、幸せ者なのよ、あなたは。
街を歩いてるあいだじゅうずっと、女の子が両サイドに居てくれるんだもの……」
……けっ。