朝5時ちょうどに目が覚めた。
よし。
バッチリ。
彼は…アツマくんは、まだグーグー爆睡中のはず。
× × ×
「予想通り遅く起きてきたわね」
「まあ、日曜でもあるし」
「マグレだったのかしら、きのうの早起きは」
「うっせーなー、誕生日の本気だよっ! きのうのは」
「ウフフ」
「愛!! おれは朝飯食う」
「わたしもつきあってあげる」
「…食べたろ? おまえはもう」
「食べたよ。食べたけど、いっしょに行く、ダイニング」
アツマくんの左手を軽く握りながら、
「あなたといっしょにいたいもん♫」
「…ちょい恥ずい」
× × ×
朝食をがっつくアツマくんを観ていた。
「はい、お茶」
食べ終えた彼に、湯呑みを差し出す。
「気が利くな」
「ありがとう」
――わたしは右腕で頬杖をつきつつ、
「あなた、きのうの夜は、ずいぶんお酒を飲んでたんだってね」
「つきあわされたんだっ」
「――盛り上がりたくもなるわよ、明日美子さんも、流さんも。なんたってあなたの誕生日なんだもの」
「バースデーケーキの代わりが、酒になった感じだった」
「ごめんなさいね。バースデーケーキ、作る余裕なかったの」
「べつにいいって。おまえに過度に負担をかけたくない」
優しい。
「あすかまで乱入してきて、カオスな飲みになっちまった」
「あすかちゃんも飲んだの?」
「ばばバッキャロ!!! 飲ませるわけねーだろ、未成年に」
「知ってるわよ、冗談よ」
「危なっかしい発言を、朝っぱらから…」
「スリルがあっていいじゃないの」
「よくねえ!!」
× × ×
「…1日遅れだけど、バースデーケーキ、買いに行く? 吉祥寺に穴場のケーキ屋さんがあるのよ。わたしのお金で買ってあげるけど」
「そこまで気を遣ってほしくない」
「ま、あなたはそもそも、ケーキ大好きってわけでもないものね」
「そうだ。だから、わざわざ吉祥寺まで買いに行かなくたっていい」
「だけど、ホットケーキは、大好物」
「……」
「わたしが作ってあげたホットケーキに、いつもあなたは眼を輝かせるんだもの」
「……」
「否定できないのね」
× × ×
「あ! ひらめいた」
「と、唐突な叫び声は自重」
「ごめんごめん、たしかに唐突だったわ」
「いったいぜんたい、なにをひらめいたのか」
「ホットケーキよホットケーキ」
「はあぁ??」
「新宿」
「新宿がどーした」
「新宿駅から徒歩20分ぐらい離れたところに、ホットケーキの美味しさが評判のカフェがあるらしいのよ」
「…行きたいんだな」
「行きましょ。きょうがいいわ。せっかく日曜だし」
「徒歩20分…か」
「なに? そこが懸念材料なの? アツマくんだったら30分だって40分だって歩いて行けるでしょ」
「おれの脚力を過大評価してねーか」
「ぜんぜん過大評価じゃないから。どーしてそんなこと言うのかなあ」
「…」
「むしろ、アツマくんより脚力があるひとなんているの??」
「ばっばかいうな」
「……半分は、冗談でした」
「半分って、おい」
× × ×
そんなこんなで、新宿まで出てきたわたしと彼。
てくてく歩く。
ぴったりついてくる彼。
10分歩いても15分歩いても、彼は少しも離れずについてきてくれる。
アツマくんのそういうところ…好きだよ、わたし。
「…で、カフェは、どこ?」
「もうすぐ見えてくるはずよ」
「混雑してねーだろーな」
「まあ五分五分ね」
「もし、行列なんかできてたら…」
「あきらめる、なんて言わせないわよ。あなただって、ホットケーキ大好き人間なんでしょ!?」
もうちょっとで、お店が見えるはず。
――おや?
前方に、知り合いのような姿が…。
女の子。
肩までの、黒髪ストレート。
ぴっちりとしたジーンズ。
…そのジーンズに、非常に見覚えがあって。
わたしより、少し脚が長くて、
履いているのは、いつもジーンズ。
――やっぱりだ。
スケッチブックを、小脇に抱えている、ということは――!