9月も、あっという間に最終日。
× × ×
・わたし
・利比古
・アツマくん
・あすかちゃん
の4人で団欒(だんらん)のひととき。
反省会じゃないけれど、順番に、9月にやったことを振り返っていくことになった。
まずは、あすかちゃん。
「ついこの前文化祭でバンドやりました」
「かっこいいよね~」
「いや~それほどでも、おねーさん」
「あすかさんは本当にかっこよかったですよ」
「利比古くん……」
おー、利比古のお墨付きだ。
「バンドのほかにも、スポーツ新聞作ってるんでしょ?」
「はい作ってます」
「…充実してるよね」
「さ、さみしそうにならないで、おねーさん」
「…それで近日中に『作文オリンピック』の結果発表」
「はい…」
「……充実してるよね」
「お、おねーさん、元気出して!!」
「お姉ちゃん、『羽田愛のお料理学園』がもうすぐ完成するよ」
元気づけようと思ってくれてるのね、利比古。
「――KHKの子たちがウチの邸(いえ)に合宿に来たときに撮影した番組よね。タイトルはあれでよかったの?」
「――ごめんね、KHKの面々、みんなネーミングセンスがないんだ」
KHKとは『桐原放送協会』の略で、利比古が入っている放送系のクラブである。
「わたしはあのタイトル、案外いいと思ってるよ」
「そう?
ひょっとして――お姉ちゃんの名前が入ってるから?」
ギクッ。
――どうしてわかるの、なんて、言わない。言わないんだから。
「お姉ちゃんの『冠番組』が誕生しちゃったね――ぼくのほうのクラブ活動で」
「べっべつにいいんじゃない?」
「あとさ」
「なあに?」
「板東さんが――」
「板東なぎさちゃんが、?」
「お姉ちゃんのエプロン姿……かわいいって」
「言ってくれたの?
うれしい!!」
「あんまりデカい声出すな、このお調子者」
ムスッとしてわたしは、
「あすかちゃんと利比古は、ちゃんと9月のことを振り返ってくれたわよ。あなたはなにをやっていたの? アツマくん」
「バイトに明け暮れていた」
「ふーーーーーーーーーん」
「バイトをバカにするな!」
「してないわよ!!」
「あと――筋トレを再開した」
「あー、お兄ちゃん、すごい勢いでエアロバイク漕いでたね」
「たしかに、ときたま腹筋とか腕立てとかやってるわよね、アツマくん」
「ときたま、じゃないっ」
「……ごめん」
「愛…そこで素直に謝られても、だな」
「……がんばってるんだよね。」
「なぜにそんなしみじみとした顔になるのか」
「ねえ……アツマくん」
「ん?? なんだよ」
「大学の後期も始まったし、そんなにわたしのこと、かまってられないかもしれないけれど。
わたしが――手助けしてほしい時は、
力を、貸してくれない?
貸してほしいな――」
「……言われなくても、わかってるから」
あすかちゃんがニヤニヤと笑い、
利比古がくすくす、と微笑んだ。
× × ×
「そういうおまえはどーなんだよ」
「そーだよ。お姉ちゃんも9月を反省してくれないとズルだよ」
「おねーさん、おねーさんの9月はどうでしたか?」
3つの方面から、集中砲火。
「んーーーーー」
「なんだよ、その思案顔」
「文字通り思案してるのよアツマくん」
「おねーさんは文芸部の部長なんですよね?」
「そうよ。でも残念なことに、文芸部ではあまり忙しくないの」
「部長なのに?」
アツマくんが訝(いぶか)しげに言う。
「そこ重要かしら」
「部長なのに忙しくないって――なんかたるんでんなぁ」
「わたしたるんでるかしら」
「お姉ちゃん、おさえておさえて」
苦笑するしかない、といった様子の利比古。
「これから忙しくなるんだからっ。文芸部以外にも、受験勉強以外にも!」
「具体的には――?」
不満げなアツマくん。
「10月になったら教えるわ」
「10月って明日からじゃねーかっ!!」
「……不服?」
「おれをちゃかしやがってっ…!」
「明日まで待ってよ」
怒りっぽく、
「10月の愛がとても楽しみだなあ」
「どうぞ次回お楽しみに」
ピリピリと視線をぶつけ合うわたしとアツマくんだったが、
「おねーさんとお兄ちゃんって、」
あすかちゃんがおもむろに口を開いて、
「ホント、仲いいですよね。」
物事の本質を捉える、
あすかちゃんの洞察力……。
「わかります、あすかさん」
「え、そこで利比古うなずくの」
「うなずくよ」
「どうしてうなずくの……」
「察しが悪いなあ、お姉ちゃんらしくない」
「アツマくん……利比古がいじめる」
「おれに手助けを求められても……」
「……そうよね」
「お」
「本当に必要になったときに……助けて、って言うから」
「……おぅ」
「照れを隠そうとしなくたって――いいじゃない」