【愛の◯◯】誤解を招く言葉がいっぱい

 

「……ちょっとしか飲んでないし。それに、今回は誰にも迷惑かけなかったんだから、別に怒らなくたっていいじゃないの」
「こーゆーのはケジメってのが大事なんだ、ケジメが。いいかあ? これで味をしめて、二度三度って危険性がだなあ――」
「ムカつく」
「は!? 逆ギレすんじゃねーよ」
「わかったわよ。いいんでしょ、飲まなかったら、炭酸!」
 そう言って、ぷいっと顔をそむけて、茶番を打ち切ろうとしたのに、
「ちょっち待てや!」
とにっくきアツマくんが腕を掴んでくるのだ。
「痛いんですけど」
「おしおきだ」
「だから飲まないって言ってるでしょ?」
「約束できるか?」
「もちろんよ」
「あやしいな」
 うるさい早く手を離せこのバカ……と無言で呟きつつ不機嫌に睨みつけたら、利比古の足音が近づいてくる。
 いや、利比古だけではない。複数人の足音。
 そうだ、そうだった。今日と明日、利比古が所属しているKHK(桐原放送協会)の合宿が、わがお邸で行われるのだった。
『おじゃましま~す』
 元気のいい挨拶の声。
 利比古はわたしの右肩に手を置き、しょうがないなあお姉ちゃんは、と言わんばかりに微笑みつつ、
「夫婦ゲンカしてる場合じゃないでしょ?」
 ――わたしとアツマくんの顔が、同時に赤くなったのは言うまでもない。

 


 利比古のほかに、KHKは、女の子がふたり、男の子がひとり。
 女の子は、会長の麻井りっちゃんと、2年の板東なぎささん(アナウンス担当)。
 男の子は、2年の黒柳巧くん(撮影担当)。
 とりあえず、再会できたのがうれしくて、りっちゃんに声をかける。
「久しぶり、りっちゃん。会えてうれしいよ」
 家出のときよりも――顔色が良い感じがして、ひとまずホッとする。
「また迷惑かけちゃうね、愛さん」
「そんなこと言わないでよ。我が家だと思って、ゆっくりしていって」
「『我が家』、か……」
 しんみりするような眼になるりっちゃん。
 しまったー。
『我が家』という言葉を持ち出したのが微妙だったか。
 不都合なことを思い出させてしまったかもしれない。
「ゴメン、りっちゃん! わたしの言葉づかいがあやふやで。とにかく……リフレッシュしようよ、パーッとやろう? パーッと」
 りっちゃんは苦笑いで、
「気を遣わないで、愛さん」
「でも……!」
 この場をどう取りまとめようかとわたしがピンチになりかけているところに、
「愛さんの言う通りですよ!! パーッとやりましょうよパーッと!! 今夜は愛さんの絶品ハンバーグが食べられるんですよ!?」
と、物凄いテンションで、りっちゃんの後輩の板東なぎささんがまくし立ててくるのだ。
「ね、会長。ハンバーグ食べて元気出しましょ」
 じゃれるように、りっちゃんの背中を押す。
「なぎさ……。そうだね、そうだよね。愛さん……ハンバーグ、楽しみにしちゃってもいい?」
「もちろんだよ! りっちゃん」
 ありがとう、なぎささん。

 

 2年男子の黒柳くんは、気後れしているような感じ。
 なんとなく、利比古と雰囲気が被る。
 ――少しだけ意地悪しちゃおう、と思って、腰をかがめ、ボーッと立ち尽くしている黒柳くんの顔を、下から覗き込むようにして、
「ようこそ、後輩クン。今晩は美味しいゴハンわたしが作ってあげるから、たくさん食べてね」
と満面の笑顔で言ってみた。
 型通り、黒柳くん、ドギマギ。
 からかっちゃった……。
 でも、かわいいからいいや、と思っていると、
「初対面の男子に変なモーションかけんな、このバカ」
と、にっくきアツマがおもむろにわたしの頭を小突いてくるのだ。
 モーションかけるって、なに!?
 誤解を招くようなこと言わないでよ!?
 わかってんの!?!?