授業がすべて終わったあと、さやかが、わたしの教室にやってきた。
わたし「どしたのさやか、むつかしそうな顔して」
さやか「音楽室で話したいことがあるから来て」
わたし・アカちゃん「なぜに音楽室!?」
わたし「だれも使う予定がなかったから、音楽室借りられるってのはわかったけどさ、なにも音楽室貸し切り状態にしなくても」
ピアノの椅子に腰掛けているアカちゃん「そうよ、外じゃダメなの? ガーデンとか」
さやか「ガーデンは有名スポットになっちゃったからね、
わたしが発狂したせいで」
bakhtin19880823.hatenadiary.jp
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わたし「発狂は言い過ぎでしょー(^_^;)」
さやか「……、
外じゃダメ、というより、オフレコというか風説の流布というかーー尾ひれがつくとマズいはなしだと思って」
アカちゃん「いったい、なにが言いたいのよ?」
さやか「愛とアカ子の教室からは見えなかっただろうけど……、
きょう、わたしの教室の窓から、葉山先輩が早退するのが見えたの」
わたし・アカちゃん「ほんと!?」
さやか「(しばしの沈黙ののち、軽く息を吸い込んで)
早退ならまだいいほうで。
きのう、葉山先輩、学校を休んでる」
アカちゃん「それ、どうしてわかったの、さやかちゃん(゜o゜;」
さやか「順を追って話すとーー
まず、窓際の席から葉山先輩が早退していくのを目撃した時点では、少し気になるくらいだった。
『葉山先輩が身体が弱い』っていうのはもう全校に知れ渡ってるからーー」
わたし「体調を崩して早退しても致し方なし、って場合もあるだろうと」
さやか「そうなんだけど、どうも『胸騒ぎ』がして」
アカちゃん「どうして?」
さやか「根拠、ってほどのものじゃあないんだけど。
どうも、早退していく葉山先輩が、『学校から逃げるように立ち去っていく』ように見えたのね」
わたし「なにか悪い事してトンズラした、みたいな?」
さやか「違う」
わたし「え」
さやか「どう表現すればいいのかな……、なんか、『学校にいるのがいたたまれない』というか……」
アカちゃん「学校の雰囲気に耐えられなくなったってこと?
葉山先輩が!?
考えられない、葉山先輩よ? 葉山先輩がそんな重圧みたいなの、背負うわけないと思うんだけど?」
さやか「そこよ、アカ子」
アカちゃん「そこってどこ」
さやか「・・・・・・OTL」
アカちゃん「ご、ごめん、ボケる場面じゃなかったね」
呆れ気味のわたし「葉山先輩がそんなプレッシャーみたいなのに支配されてしまう人には見えない『から逆に』、『異変』を感じた、ってことでしょ(^_^;)」
さやか「さすが、現代文の平均点97点」
わたし「適当なこと言いなさんな」
さやか「話を続けていいかしら……(-_-;)
ーーしょうじき、愛、あなたより、わたしみたいな人間は、葉山先輩と接点が薄いほう。言ってること、わかるよね?」
わたし「まぁね」
さやか「だけど接点がまったくないわけじゃないから。
とくにあのピアノコンテストで愛に圧勝してからは、以前より意識することが多くなった」
アカちゃん「ちょっと💢 『圧勝』とか、その言い方、愛ちゃんに対して酷くない?」
わたし「いいのいいの、アカちゃん。
(アカちゃんのそばに歩み寄って)さやかは不器用なんだから、ああいう言い方のほうがさやからしいとわたしは思う」
アカちゃん「(うなずきつつ)なるほど。」
さやか「あ、愛? アカ子になにを吹聴してーー」
わたし「そういう『吹聴(ふいちょう)』みたいな言葉を話しことばで使っちゃうところが、さやかの個性」
さやか「???」
わたし「さやか、話を続けてw」
さやか「(・_・;)・・・・・・、
とにかく胸騒ぎが収まらなかったから、愛ならなにか知ってないかと思って、とりあえず放課後に人気(ひとけ)の少ない場所を押さえた」
アカちゃん「わたしはオマケってこと!?」
さやか・わたし『わたしは/さやかは、そういうこと言ってない!!』
アカちゃん「…しゅん」
さやか「で、まっさきに、ここの音楽室が思いついたから、カギを借りる手続きしようと思ったら、今週の月曜から金曜まで放課後の利用予約が入っていて」
わたし「もしかして、全部、葉山先輩の名前で音楽室の予約がとってあったとか、そういうこと?」
さやか「さすが現代文平均97点……」
わたし「あなた97っていう数字になにかこだわりでもあるの(;´Д`)」
さやか「でも、わたしに音楽室のカギを渡した先生が言うには、
『きのうは欠席、きょうは早退してるから、月・火の欄に葉山の名前が書いてあるけど、あとで消しておくよ』と。
念には念を入れて、
『明日以降は……?』と、先生に探りを入れたのね。
そしたら、『まだ決まってない』って言われたけど、なんだか先生、口を濁してるんだな」
「今週はもう来ない」という線まである、ってことか。
音楽室云々より、学校自体にも。
でも、そしたらどうなるの、葉山先輩?
挑戦者はわたしだけなのよ。
そして、先輩がわたしの挑戦(リベンジ)を受けて立つ場である文化祭は、今週末なのよ!?
「ピアノの練習のために、音楽室借りたんでしょ、先輩のバカぁ!!」
さやか「(; ゚д゚)」
アカちゃん「(゜o゜;)」
少しでも電波の入りがよくなるように窓際に移動して、わたしはふたりにこう告げた。
「葉山先輩のスマホに電話する」
さやか「…(゚Д゚;;)ハァ?」
アカちゃん「っちょ、え、え、愛ちゃん葉山先輩の電話番号知ってたの!?」
♪ピッポッパッポッ♪
♫プルルルプルルルッ…♫
♪ガチャ♪
「先輩、いまどこにいるんですか!」
「河川敷?!」
「藤村さんと一緒にいる?!」
「ーーその学校、アツマくんの高校です」
「アツマくんってのは、えーと、えーっとですね」
「!!」
「ふじむらさぁん!!!!!!
また、勝手なこと言ったんですね!?
何度言ったらわかるんですか、藤村さんにしても葉山先輩にしてもアツマくんにしても!!!!!!」
ぶつ切りになった電話。
大きく息を吸い込んで、わたしはさやかとアカちゃんに宣言する。
「夜、『もう一度電話かける』って約束したから、できるだけ葉山先輩を説得してみる」