どうも、ハルです。
きのうの部活帰り、戸部あすかちゃんに『話がある』って言われて。
お願いごとをされちゃったんです。
それはーー、
来週のクリスマス・イブの夜に、
アカ子さんーーもといアカ子といっしょに、
ライブハウスに来て、あすかちゃんのバンドの演奏を、聴いてほしいんだ、と。
『きっと必ず絶対最後まで聴いていってくださいね。
わたしたちの演奏を。
アカ子さんと一緒に。』
あすかちゃんにーー、
『観客にアカ子がいて、つらくないのか?』
と、はっきり訊(き)いたら、
『逆です。』
と、彼女は明るくはっきり答えた。
2学期のはじめ、羽田愛さんに、笹島飯店で会って、
アカ子さんーーいやアカ子を大事にすること、そして、あすかちゃんのことも大事にしてあげることを、約束した。
アカ子は、羽田さんの親友。
あすかちゃんは、羽田さんの妹みたいな存在。
羽田さんとあすかちゃんは同居していて、そもそもあすかちゃんのお兄さんはアツマさんで、さらにアツマさんと羽田さんは……。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
× × ×
アカ子と通話
「あのさ、羽田さん、怒らせたら、怖いよね」
『怖いわよ』
「うっ」
『でもなんでそんなことを訊くの?』
「いやそれは……、きみやあすかちゃんにーー例えば、不誠実な態度をとったりしたなら、羽田さん、ただじゃすまさないだろうな、って」
『当たり前でしょう。
とくに、もしもあなたがあすかちゃんを泣かせたりしたのなら、愛ちゃんだけでなく、アツマさんも敵に回すのよ』
「ひえっっ」
『ーーまぁ、あなたはすでにあすかちゃんを泣かせてしまっているのだけれど』
「!?」
『アツマさんに泣きついたのよーー失恋のショックで』
「な、な、なんできみがそれ知ってんだ」
『あすかちゃん本人から直接聞いたの』
「あ、アツマさんと会うのも怖くなってきた」
『それは大丈夫だと思うけれど。
アツマさん、大人だから。
でも、わたしとあなたも大人にならないといけないのよ。
責任があるのよ……あなたにもわたしにも』
「責任」
『これ以上あすかちゃんを悲しませたくないし、悲しませられないでしょう?』
「じゃあ、じゃあアカ子さん」
『さん付けしない!』
「アカ子、一緒にライブハウスに行こう」
『いつ?』
「イブに。
あすかちゃんのギターを聴きに行くんだっ」
『ーーそのつもりだったわよ』
「あすかちゃんから、直接に、お願いされて」
『だろうと思ったw』
「やけに楽しそうだな…」
『楽しみだもの。
でもきっと愛ちゃんもアツマさんも来るはずよ』
「たったしかに。ほっほんとうだなあっ」
『あなた手が震えてるでしょw』
「なっなんでわかるんだ」
『全員集合でいいじゃないのよ~
さやかちゃんも誘おうかしら。
蜜柑も行きたがるかもねえ』
「……。
あのさ、アカ子」
『どうしたのよあらたまって』
「アカ子、おれと一緒に聴こう、
あすかちゃんの演奏。
おれはアカ子と聴きたいんだっ」
『ふたりで、ってこと?』
「ふたりだけで」
『ーーーー』
「お、おいアカ子!?」
『ーーーーーー』
「もしもし!? もしもし!?」
『ーーごめんなさい、
スマホを落としてしまって』
「当日は早めに待ち合わせよう」
『……そうね。
ふたりで会って、ふたりでライブハウスに行きましょう』