ストレイテナー、襲来 - 音楽と本、それからそれから……。

初夏。

学校のプール……

水泳部員の御神本（みかもと）すずかが、ただ一人、プールの真ん中にぷかぷかと浮かんでいた。

すずかは、親友で腐れ縁の戸崎（とさき）あかりから、驚くべき話を聞かされたばかりだった。

その驚き話とはーー

教室。

すずかの席に突撃するあかり。

勢い余ってすっ転びかけるあかり。

すずかによって捕獲されるあかり。

「なんなのいきなり」

「すずか！！

バンドやろう、バンド！！」

「( ﾟДﾟ)ﾊｧ?」

あかりが何に感化されて『バンドをやる』なんぞ言い出したのか、すずかには見当がつかなかった。

「どうしてまたバンドなんか」

「あのね、商店街にライブハウスあるじゃん」

「図書館の近く？」

「そう、ビルの地下のライブハウス」

「ライブハウスに行ったの？」

「そう、タイジュくんと一緒に」

「ああ、彼氏か(　-_-)」

「で、『ストレイテナー』っていうバンドが来たのね」

「で？」

「すっごいかっこよかったの！！　今まで生きてきたなかで、いちばん熱い気持ちになったの！！」

「今まで生きてきたなかで……！？(゜o゜;）」

「そう！　だから、あたしもバンドやろうと思ったの」

「あんた楽器弾けたっけ？」

「ぜんぜん」

「有言不実行になっちゃうよ」

「今度は違うもん！！　(*´∀｀*)」

「なんでそんな自信が」

「あのね、違うクラスの『的場さん』って知ってる？」

「ああ、的場マキさん？」

「そ、そ、で、こっからが重要なんだけど、的場さんって、エレキギター弾くのがすごく巧いんだって！」

「へぇー、そうなんだ」

「たぶん全校でいちばん巧いんだって、全校レベルどころじゃなくて、高校生じゃなかったらスカウトされてもおかしくないんだって」

「え、ギタリストって、スカウトされるもんなの」

「わからない！！（きっぱり）」

「(´Д｀)ﾊｧ…」

「なに、乗り気じゃないの？」

「だって、的場さんとわたしら、中学校違ったし、小学校の校区も違ったじゃん。接点あんまないじゃん」

「スカウトすればいいんだよ！」

「( ﾟДﾟ)ﾊｧ?　どうやって」

「まだ決めてない！！」

「……」

「そもそも、的場さんがギターやるとして、あんたはどうすんの」

「ボーカル」

「ギターとボーカルだけじゃバンドはできないでしょうが」

「すずかはベースを弾いて」

「も、物凄い無茶振りね……(；´Д｀)」

TRAIN

アーティスト: ストレイテナー,ホリエアツシ

出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン

発売日: 2007/02/14

メディア: CD

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「じゃーん！！　このCDお小遣いで買っちゃった♫」

「あ、もしかして、何ヶ月か前にMステでこの曲歌ってた人たち？　『ストレイテナー』って」

「ピンポーン！！」

「あんたかタイジュくんが、そのMステの放送を観て興味を持ったってこと？」

「タイジュくん！」

「そっちかい」

「で、タイジュくんに連れられてライブに行った、と」

「そう」

「でもあんたもう一つ大事なこと忘れてない？」

「なに」

「ドラムはどーすんのよ、ドラムは」

「いるじゃないのこのクラスに、体力だけはありそうなヤツが」

「男子？」

「え、すずかはわからないの」

「もしかして……真島のこと！？」

「そう、真島正志（ましま　まさし）」

「まぁ、2年の春にして自転車部のエースだっけ……体力はたしかにありそうだけど」

「すずか、真島と接点あるじゃん、交渉してくれない？」

「は！？」

「すずか、昔ジュニアトライアスロンやってたじゃん、真島もジュニアトライアスロンの常連だって言ってたじゃん」

「それはジュニアトライアスロンだけの話でしょうが。あっちは自転車がメインで、こっちはあくまで水泳がメインなんだよ？

　それに、あいつ郡部の中学から来たじゃん」

「それがどうしたっていうの」

「だから、中学卒業まで、それしかわたしと真島の接点はなかったのよ？」

「『それ』って？」

「ジュニアトライアスロン！」

「顔なじみじゃなかったの？」

「顔は知ってたけど、高校に入るまで話したこともなかったんだよ」

「うちのクラスの体育委員、あんたと真島じゃん」

「たしかにそうだけど、それだけでしょ、現在の接点」

「同じ運動部同士の横のつながり」

「いや、そんなものないから」

「どーして」

「前にもあんたに言ったように、高校の水泳部は事情が特殊なんだよ。基本自主練だし、冬も自分が所属してるスイミングの室内プールで練習するんだし。

　自転車部とは練習場所も練習形態もぜんぜん違うし。

　あっちは『陸』の競技で、こっちは『水』での競技だし」

「(´・ω・｀)ｼｮﾎﾞｰﾝ」

「それに加えて、的場さんをどう説得するの、不可能に限りなく近いよ」

「(´；ω；｀)ﾌﾞﾜｯ」

「泣かなくてもいいでしょ(；´Д｀)」