【愛の◯◯】獰猛さが、好き。

 

「ダイチ!!!」

「なんだその大声は、ソラ」

「眠いの!? もしかして」

「なぜそう思う」

「だって声がヒョロけてるし」

「ヒョロけてるってなんだ、ヒョロけてるって」

「土曜の朝だし、起きたばっかりなんじゃないの」

「普通に寝て普通に起きたが?」

「信用できない!!」

「オイこら」

「ベッドの上でウトウトしてたらわたしの電話がかかってきたとかなんじゃないの!?」

「それはない」

「……あっそ」

「ソラ」

「なに」

「おはよう」

「お、おはようっ」

 

× × ×

 

「状況説明。わたしがダイチにモーニングコールしてるとこ」

「その説明は本当に必要だったのか?」

「うるさいうるさい」

「『うるさい』は1回にしておけ」

「……自己紹介!! 自己紹介タイム!!」

「誰に対して」

「ブログ読者の皆様に対して」

「君とボクが大学生になったからか?」

「そーだよ。あらためて、ってコトだよ」

「ボクが先に自己紹介していいか」

「いいよ」

「皆様、会津(あいづ)ダイチと申します。昨年度までは高校生で、『スポーツ新聞部』に入っておりました。水谷(みずたに)ソラとは部活の同期です」

「エエッ、あっさりし過ぎ。ダイチって、横浜家系ラーメンとか食べられないタイプ?」

「横浜家系ラーメンはこってりラーメンなのか? 食べたコト無いので分からん」

「つ、つぎは、わたしの自己紹介の番っ」

「慌てるなよ。肩にチカラが入り過ぎてるんじゃないか?」

「そんなのありえないっ」

「あんまり長々と自分の名前を売り過ぎるなよ」

「何それ!? ダイチのバカ」

「心外な」

「……自己紹介、やる。

 水谷(みずたに)ソラです。

 身長160センチ。

 趣味は野球帽集め。

 とある高校で『スポーツ新聞部』の部員でした。

 同期の会津ダイチをひたすらイジメる日々でした。

 でも、いろいろな◯◯があって、その◯◯を経て、わたしはダイチを好きになって、交際するようになって……幸せなコトに、同じ大学に進学するコトができました。

 今月になってからも、既に3回、ダイチとデートしました。

 この前のデート場所は下北沢でした。その前は、井の頭公園井の頭公園の前は……」

「危惧していた通りだ。際限が無い」

「際限が無いって言わないで!! ムカつく!! 電話じゃなかったら3回パンチ食らわせてる」

「凶暴な。そんな風によく吠えるトコロが、まさに……」

「わたしの自己紹介を妨害しないでよっ」

「妨害する気など無いが、これだけは言わせてくれ」

「こ、これだけは……って?」

「君の獰猛(どうもう)な性質は、鬱陶しくもあるが。鬱陶しさよりも何倍も、君のそういう性質が、ボクは気に入ってる」

「そ、それって……つまり?」

「カワイイってコトだよ」

「!?」

「驚いたか」

「だだだって、ダイチ普段言わないじゃん、わたしが、カワイイ、だなんて……」

「ソラ。明日、会わないか?」

「あした!? あした!?!?」

「返答は自己紹介が終わった後でいい」

「カワイイって言った上に、デートのお誘い……」

「ボクは遠慮はしない」

「ちょちょっとまって」

「どーした」

スマホを持つ手が、震えまくってるの」

「ずいぶんカワイイじゃないか」

「……」

「カワイイ震えが伝わってくる」

「……なにそのキモい表現」