新入生の「敦賀由貴子(つるが ゆきこ)」ちゃんがサークルのお部屋にやって来てくれた。
昨日お部屋に来てくれた小松まなみちゃんよりも、だいぶ長い髪。
わたしの長髪ほど長くはないけど、肩の下まで伸びていて、前代幹事長の高輪(たかなわ)ミナさんを想起させるものがある。
背丈は160センチに少し届かない程度。これもミナさんとの相似点(そうじてん)だ。
お部屋の入り口の近くで由貴子ちゃんと立ち話。
「由貴子ちゃんは大阪出身なのよね? あんまり関西弁的なイントネーション出てないわね」
「鍛えたんです。東京の大学に行くんだから、東京の色に染まるべきだ、って」
ほほぉ。
「入会動機は?」
わたしが訊くと、
「漫画7割、ソフトボール3割、です」
オーーッ。
昨日、小松まなみちゃんは、
『漫画3割、ソフトボール7割』
と言っていた。
新入生の女の子ふたりで、好対照……!
「どんな漫画が好きかしら? やっぱし、少女漫画かな――」
わたしがそう尋ねた瞬間に、ドアが開いた。
2年生の古性(こしょう)シュウジくんだ。
そういえば、シュウジくんも大阪出身。
そして、シュウジくんもあんまり関西弁の色を出さない……。
とか、思っていたら。
「しゅしゅしゅシュウジ先輩っ!!」
と、由貴子ちゃんがドッキリビックリなリアクションを。
え。
彼女、「先輩」って、シュウジくんのこと、呼んだ。
とすると。
互いに大阪出身、なのだから。
「あなたたち、高校の先輩後輩同士なの?」
わたしの問い掛けに、シュウジくんが、ほっぺたをポリポリしながら、
「そうです。敦賀は高校の1個下です。……こんなところで再会するなんてな」
ここで、シュウジくんの後輩なコトが発覚した由貴子ちゃんが、
「どうして、サークルのこと、知らせてくれなかったんですか」
と、うつむきつつ、昔の先輩男子に。
「敦賀だって」
ややきまり悪そうに、
「この大学に入ったってコト、知らせてきてなかったろ」
と、シュウジくんは。
そのまま互いを見られずに沈黙。
すれ違ってる。
でも、
「感動の再会じゃないのよ!!」
とわたしは割って入り、
「しょっぱなからギクシャクするんじゃなくって、再会をもっと喜ぶべきじゃない!?」
「……羽田幹事長」
わたしに振り向き呼んできたのは由貴子ちゃんのほうだ。
とりあえず、
「『愛さん』って呼んでよ」
とお願いする。
「じゃあ、愛さん……。シュウジ先輩って、母校では、『めっちゃ文学青年』で有名でして」
『めっちゃ』文学青年。
関西っぽいかも。
「漫画が好きだなんて、わたし知らなかった」
そう言い、由貴子ちゃんはシュウジくんをまっすぐ見据え、
「わたしも漫画に関心があってこのサークルに来たんですけど。もっと早く漫画好きなのを教えてくれたって良かったじゃないですかっ」
「あのさ、敦賀」
押され気味のシュウジくんは、
「井の中の蛙(かわず)がなんとやら、というか。やっぱり世界は思ったより広くて」
と言い、わたしをチラ見して、
「ほんとうに文学通なのは、羽田センパイのほうだよ」
『文学通』と言われた嬉しさをわたしは否定できないが、
「愛さん。」
真顔になった由貴子ちゃんから、
「あした、ふたりだけで、お茶しませんか」
と、豪速球的な申し出が。
「なにを言ってるんだ敦賀。不躾(ぶしつけ)に」
シュウジくんがたしなめるが、
「……」
と、敵意とかは感じられないものの、由貴子ちゃんは依然真顔。
ところで。
ところでところで。
実は、シュウジくんが入室してくる前、つまり由貴子ちゃんとわたしが立ち話していた時から、新山文吾(しんざん ブンゴ)くんという2年生男子が、部屋の奥のほうの席に座っていたのである。
120%ブンゴくんを置いてけぼりにしてしまっていたので、奥のほうの彼に視線レーザーを発射するわたし。
ブンゴくんは、京都府出身。
つまりつまり。
関西出身者が、今このお部屋には、3人も居るというワケだ。
『大阪と京都の相性ってどうなのかしら?』
と思ったりしながら、ブンゴくんに視線レーザーを注ぎ続ける。
すると、大変興味深いコトが発覚した。
ブンゴくんは、なんと。
ずーーーっと、由貴子ちゃんから眼を離していないのだ……!!!