新入生の「小松まなみ」ちゃんがサークルのお部屋にやって来てくれている。
かなり短い髪。わたしの長髪の3分の1ぐらいの長さ。
そして背が高い。165センチか166センチってところね。
第一印象は、「ボーイッシュ」。
「ねえねえ、あなたのこと『まなみちゃん』って呼んでもいい?」
「もちろんいいですよ、羽田幹事長」
「わたし『羽田幹事長』はイヤかな」
「えっ」
「下の名前で呼んでくれるほうがいい」
「えーっと……愛さん、でしたよね」
「そーよ」
「では、『愛さん』で」
わたしはニッコリ。
そういえば、このサークルで女子の後輩ができるの、初めてだ。
「まなみちゃんは、どうしてこのサークルに入ろうと思ったの?」とわたし。
「動機は、漫画3割、ソフトボール7割です」とまなみちゃん。
「なるほどー。カラダを動かすのが好きなのね?」
「好きです」
「わたしとおんなじ」
「そうなんですか」
『羽田センパイはスポーツ万能なんだよ。ソフトボールでは、だれよりも速い球を投げるんだ』
幸拳矢(みゆき けんや)くんの声が割り込んでくる。
「だれよりも、って……男子よりも、ですか」
とまなみちゃん。
わたしをジックリと眺めてから、
「あの、失礼だと思うんですけど、愛さん、こんな華奢なカラダなのに……」
「まーそーよねー。信じがたいかもしれないけどねー」
まなみちゃんは、
「あたし、愛さんが投げるところ、早く見てみたいです」
おー。
「分かったわ。できれば今週中にソフトの練習しましょう」
照れ混じりの嬉しい顔を見せてくれる、まなみちゃん。
拳矢くんが、声を割り込ませるだけではなく、女子ふたりの立っている場所に近寄ってきた。
「小松さん。ぼく、3年の、幸拳矢」
なにその積極性。
ツッコみたくなってくるじゃないの。
「まなみ、でいいですよ」
「だったら……まなみさん」
「ハイ」
「どうぞよろしくね」
「ハイ!」
「ところで」
「ハイ?」
「きみと名字が同じ、小松未可子(こまつ みかこ)って声優さんがいるんだけど」
「……ハイ??」
「なんだか、小松未可子さんが演じるクールでボーイッシュな少女キャラの面影を、きみに……感じてしまって」
ちょっと待ちなさい拳矢くん。
初対面でそれは無いんじゃないの。
だれにでも声優ネタが通用すると思ってるんじゃないかしら?
あなたは重大な間違いを犯してるわ。
それにしても、3年生にもなって、自分の間違ってるところに気付く様子も無いなんて……!!
「拳矢くん!! まなみちゃんがドン引きしてるのが分かんないの」
「う」
わたしに怯(ひる)む拳矢くん。
「怒るわよ!?」
「ううぅ」
呻(うめ)かないでよ。
まったく。
「幹事長権限でペナルティ出すわ」
「ぐぐ」
「今晩、わたし・まなみちゃん・あなたの3人で、バッティングセンターに行きましょう」
「そんな!?」
「黙ってついて来るのよ!! しごいてあげるから」
拳矢くんが青ざめる。
× × ×
部屋の隅っこのソファで、ひたすら項垂(うなだ)れる拳矢くんだった。
もうひとりの3年生男子・和田成清(わだ なりきよ)くんが入室。
拳矢くん同様、不用意なコミュニケーションをまなみちゃんとするんではないか……? と、わたしは懸念する。
「新入生の子ですか」
「確認するまでも無いでしょう成清くん。1年の小松まなみちゃんよ」
「オォー」
成清くんのリアクションが不安をかき立てる。
「小松まなみさん、ですか」
彼は、
「おれ、和田成清って言うっす。よろしくっす」
と、軽いノリの自己紹介。
なーんか、いつもよりチャラくない!?
「えーと、きみのこと、どう呼べばいいかな?」
やっぱり成清くんチャラい。
勢いに押されるように、まなみちゃんは、
「下の名前で……どうぞ」
「じゃあ『まなみさん』で」
「は、ハイ」
「早速なんだけど――」
「な、なんですか?」
「アニメソングとか、興味あったりしない?? おれ、このサークルでは、『アニソンマスター』で通(とお)っていて――」
あのねえ。
「あ、あ、あにそんますたー、!?」
「カラオケなら、いつでも歌う準備ができてるよ」
成清くん。
あなた……分からないのね。
まなみちゃん、怯(おび)え始めてるのよ?
「成清くーーーん」
睨みつけながら言うわたし。
「わたし、ここ最近は、自分の彼氏以外に暴力は振るわない主義だったんだけど……」
物理的にも心理的にも成清くんに詰め寄って、
「どうも甘かったみたいね」
わたしが殺気立っているのをとうとう察知する成清くん。
背筋に悪寒が走っているのが手に取るように分かる。
威圧する眼つきと共に、わたしが右手で握りこぶしを作るのも必然の流れ。
彼は恐れおののき、『勘弁して下さい……!!』というコトバすらも口から発せない。
「あ、あのっ……」
わたしの横のまなみちゃんが、
「愛さんって、厳しいんですね」
「基本、そうよ」
「そして、彼氏さんが居る」
「そうなのよ。成清くんのお腹にパンチしてから、詳しく話すわ」
「……パンチしなくても」