「――さて。
ちょうど1週間後が、羽田さんの誕生日なんであって。
このサークルから何人が彼女のお邸(やしき)に行ってあげるのか、人数を決めなきゃいかんと思うのだが」
切り出す、久保山幹事長。
途端に――大井町さんが席を立つ。
そして大井町さんは、まっすぐに出口へと歩いていく……。
『わたしを、羽田さんの邸(いえ)に行く候補に含めないでください』
無言の意思表示だった。
大井町さん。
また……逃げるのか、きみは。
バタン! と彼女はドアを閉めた。
俺は迷った。
彼女を追いかけて、捕まえるべきではないか? と思ったのだ。
だけど……踏ん切りがつかず、彼女が出ていったドアを見つめるばかりで、動き出せない。
…大井町さんがドアを閉めた音で眼が覚めたのか、後ろで日暮さんが身を起こす気配がする。
「んっ、わたしが寝てるあいだに大井町さんが居なくなってる。
そして、新田くんはボーゼンとドアを見つめてる」
日暮さんはそう言った。
俺は、
「いつまでもこのままでいい、なんて違う……と思って。だから、引き留めたほうが良かったんじゃないのか……? って」
と日暮さんに言う。
「まあ、羽田さんアレルギーみたいになってるのは否定できないよね、大井町さん」
「日暮さん。治せるアレルギー……なんじゃないでしょうか?? これは」
「――新田くんってさ」
「な、なんですか日暮さん」
「大井町さんのこと――そんなに気になるの?」
「お~~い真備(まきび)、そこらへんで勘弁してやれ~~」
狼狽(ろうばい)の俺を尻目に、日暮さんをたしなめる幹事長。
「ええーーっ、今、いいとこだったのにぃ」
「いいとこだったのにぃ、じゃねえよ真備。からかわれた新田も迷惑だろ。新田のヤツ、迷惑すら通り越して、かなり狼狽(うろた)えてんぞ」
…俺は気を取り直して、
「幹事長。…何人が羽田さんの邸(いえ)を訪問するのか、決めるんでしたよね」
「新田」
「ハイ…」
「おまえも、強いな…」
いえ、強くないですから。幹事長。
「んーっとな」
幹事長は、
「おれは、6人で訪問するのが、ちょうどいいんではないか? と思ってる」
と言った。
「――その6人って数は、どっから導き出されたの?? クボ」
日暮さんが幹事長に訊いた。
「まず――4年生から2人」
と幹事長は言う。
「4年のレギュラーメンバーって、おれ・真備・有楽(うらく)・風子の4人だろ? そのうち2人はお邸(やしき)に行って、2人は居残り」
「クボは行くべきだと思うけど。まだ幹事長でしょ。サークル代表として、行くべきじゃん??」
「…真備らしからぬ妥当な意見、どうもありがとう」
…日暮さんは若干むくれて、
「クボは行くとして、あと1人、どーすんのっ」
「それは、抽選が良かろう」
「抽選??」
「あみだクジとか、ああいうのだ」
「わたしも行ってみたいんだけどな~~。豪邸っていう話だし」
「じゃあ、抽選を勝ち抜け。
もっとも……」
「え、なに」
「真備、おまえは……この部屋で居残って『おねんね』してるほうが、お似合いな気もするが」
「ウワッ、クボ酷(ひど)っ。極悪非道な酷(ひど)さ」
「だって、羽田さんの豪邸が気に入り過ぎて、あっちで眠りこけないかどうか不安で……」
「なに!? そーゆー懸念材料があんの!? 見損なったよっ、クボっ」
「あのぉ」
それまで空気のごとく存在感の無かった1年生の成清(なりきよ)が、やりあっている4年コンビに向かい、
「4年のかたは2人が行くとして、残りの4人はどうやって選抜するんすか??」
と言う。
おー、えらいえらい、成清。
お見事な話の軌道修正だ。
幹事長はコホン、と咳払いしたのち、
「3年生から、2人。
2年生から、1人。
1年生から、1人。
――これで、合計6名になるだろ」
おーっ。
「ってことは、1年からは、おれか拳矢(けんや)のどちらか1人ってことになるんすね」
と成清は確認する。
だよな。
1年生、成清と拳矢ぐらいしか、定着しなかったもんな。
2年生からも……1人か。
俺とワッキーのどちらか……ということになるだろう。
大井町さんは……除外だ。
除外せざるを得ない。
「――新田くん」
え、え、なんですか、日暮さん?!
「ぜひとも自分が選ばれたい、って顔だあ。
わかるー、わかるよー。
リモートじゃなくて、直(ジカ)に羽田さんに会いたいよねえ??
羽田さんの彼氏もどんなものか、直(ジカ)に行って確かめたいよねえ……」
……有る事無い事言わんといてください。