【愛の◯◯】モニターの向こうの彼女の顔は晩秋にキラキラと輝く

 

11月になった。

晩秋。

 

× × ×

 

漫研ときどきソフトボールの会』の部屋。

 

有楽(うらく)副幹事長が、ビデオ通話のセッティングをしている。

彼女の横では、日暮(ひぐらし)さんが、ソファにゴロ寝。

俺と拳矢(けんや)と成清(なりきよ)は、ビデオ通話セッティングが完了するのを待っている。

 

羽田愛さんとのビデオ通話をするんである。

 

…実は、大井町さんも、さっきまではこの部屋に居た。

だけど、

『これから羽田さんとビデオ通話するよ』

と俺が伝えたら……大井町さん、瞬時にバッグを持ち上げて席を立ち、速足(はやあし)で部屋から出ていってしまった。

 

そこまでして……羽田さんを避けなくても。

 

部屋を出るのが速すぎて声をかけられなかった。

でも、呼び止めるべきだったのかもしれない。

 

逃げるなんて卑怯だ、なんてもちろん言わない。

でも。

 

『もう少し向き合ったほうがいいと思うよ』

 

こういうコトバなら……呼び止めたあとで、言うことができたかもしれなかった。

 

結局、なにも言えずじまいに終わってしまったんだけど。

後悔。

 

× × ×

 

後悔を引きずっているヒマは無かった。

ビデオ通話が始まるのだ。

 

PCモニターに羽田さんが映る。

 

気のせい…ではなく、以前ビデオ通話したときと比べて、確実に顔色が良化している。

ものすごく整った顔立ちがキラキラとしているかのような……。

 

輝かしい美人女子大学生たる羽田さんに最初に応対するのは有楽副幹事長。

 

「おはよう、羽田さん」

「おはようございます、有楽センパイ。…おはようといっても、お昼に近づいちゃってますけど」

「まあいいじゃないの」

「そうですよね。細かいことはいいですよね」

「うん。そうね。

 ――羽田さん。ところで、」

「ハイ?」

「前よりも元気になったんじゃないの?」

「――そう見えます?」

「見えるよぉ。

 わたしの後ろにいるオタク男子3人組も同じこと感じてると思う」

 

……俺と拳矢と成清のことだ。

 

遠慮の無い有楽先輩の口ぶりに羽田さんが喜んでいる。

日暮さんもニヤニヤ。

 

「新田くん。次は、あなたが羽田さんの相手になってあげてよ」と有楽先輩。

「それがいいよ。オタク男子3人組を代表して…ね」と日暮さんも促す。

 

やれやれ…。

 

 

「羽田さん」

「ご無沙汰ね、新田くん」

「きみの矢印が上向きみたいで良かったよ」

「わかるの?」

「わかるさ」

「新田くん…」

「え」

シブみのある声で言うのね」

!?

「あ~、ごめんなさいごめんなさい、もちろん、あなたの声をホメているのよ?」

 

シブみ」って。

生まれて初めて言われたぞ…!

 

「うろたえさせちゃって、ごめんなさいね」

「い…いや、何度も謝る必要なんて無いさ」

「ありがとう☆」

 

× × ×

 

とりとめのないことを彼女と喋りながら……大井町さんのことについて触れるべきなのか、迷っていた。

 

会話の流れがいったん止まってしまう。

 

ニッコリニコニコな羽田さんに向かう視線が少し逸れる。

羽田さんが綺麗すぎるから逸れたのではなく……大井町さんのことを言うべきか、まだ迷ってしまっていたから。

 

 

……そういえば。

 

 

大井町さん云々で迷いまくってしまうよりも。

羽田さん――たしか。

 

 

ふたたび俺は――画面の向こうの綺麗すぎる彼女と眼を合わせる。

 

軽く息を吸って、

 

「羽田さん。

 きみ、たしか。

 もうすぐ……お誕生日なんじゃないの??

 ハタチの。」

 

言った途端に、

憶えててくれたの!??!

と叫ぶ羽田さん。

 

もうじき誕生日なのを俺が憶えていたのがよっぽど嬉しかったのか……前のめりになる羽田さん。