戸部くんのお邸(やしき)でトリオ女子会を始めた。
・わたくし葉山むつみ
・八木八重子
・小泉
女子校中等部からの長い付き合いの3名である。
3人ともリビングのソファに座っていて、わたしの右斜め前には八重子、左斜め前には小泉。
「葉山」
八重子が呼びかけてきて、
「戸部くんがメロンソーダ買ってくるのが待ち遠しいんじゃないの」
「そりゃそーよ」
わたしは答える。
しかしわたしのスマートフォンの通知音が鳴って、
『すまん近くのコンビニとスーパーのどっちにもおまえが所望のメロンソーダ無かった。別の店を探すから戻りが遅れる』
という戸部くんからのメッセージが。
「彼、しばらく帰ってこれなさそう。メロンソーダ探しが難航してるって」
わたしが2人に告げると、八重子が、
「戸部くんが帰ってきたら、ちゃんと『ありがとう。ご苦労さま』って言うんだよ」
それぐらい分かってる。
「それぐらい分かってるからぁ。ところで……」
八重子に視線を注いで、
「今回の女子会は『八重子大学卒業記念』の女子会でもあるのよ」
「そ、そーだったの!?」と八重子。
「いろいろお祝いしたいのよ。卒業の他にも就職だとか」とわたし。
「就職は……おめでたいものかな」と八重子。
「おめでたいわよー。次のステップに進むってコトなんだから」
とわたしは言って、それから、
「あなたは浪人したりいろいろ苦労があったんだから。ほら……あなたのお母さんは出て行っちゃって、父子家庭でしょう?」
ひと呼吸置いたあとで、
「お母さん代わりになってあげたいのよ」
直球でわたしに言われたから、八重子の視線が少し逸れて、恥ずかしそうなご様子になる。
「葉山の母性本能かー。たまんないなー」
そう言ったのは小泉。
わたしは落ち着き払って、
「小泉にだってあるでしょう。母性本能みたいなモノが」
「エッ、無茶振り」
「あなたエプロン付けたりしたら、想定外の母性がみなぎるっていうのに」
「よく分かんないよ、葉山」
「小泉の持ってるエプロンって可愛いのよね」
「な、なに言い出すかな。照れるじゃん」
「自分でアップリケまで縫い付けてるんだもの」
「ちょちょちょっと!! なんでそんなコトまでご存知なの葉山」
「意外な可愛らしさが目立つ一方で、なんといっても小泉小陽(こはる)は、うら若き女教師……」
「……なんだか目線が下品なんですけど」
そう言ってやや不機嫌顔の小泉。
こんな小泉も可愛い。
× × ×
「あー、もうっ。葉山になんとかして反撃したいよ」
そう言うのは小泉のほう。
頬杖をついて、思案して、
「あんたさ。羽田さんに家庭教師(カテキョー)になってもらいたいみたいじゃん」
「え、どうして知ってるのよ小泉……」
意表を突かれちゃった。
少し落ち着きが無くなっちゃうわたし。
八重子からも、
「自分で言ってたでしょ葉山? なんで自分が言ったの憶えてないかな」
言ったかしら。
「もう拡散しかけてるのかも」
八重子は怖いことを言い、
「羽田さんのパートナーの戸部くんにも、漏れてるんじゃない?」
と、非常に恐ろしいことを言い足してくる。
わたしは困ってしまって、下向き目線で無言になってしまう。
この場でどう説明したらいいのかしら。
無言が続いてしまうのが焦りに繋がってしまう。
わたしがテンパり通しだと、今度は八重子も小泉も困惑させてしまうし……。
だれかの足音が聞こえてきた。
わたしは足音のするほうに顔を向ける。
戸部くんだった。
カラダごと彼に向けて、
「おかえりなさい……。大変だったわね、遠くまで。ご苦労さま。ありがとう、わたしのワガママを受け容れてくれて」
「どーってことない」
買い物バッグからわたしの好きなメロンソーダのペットボトルを取り出す戸部くん。
そのペットボトルをわたしに手渡してくる。
素直にわたしは受け取る。
わたしがペットボトルをソファの前のテーブルに置いた瞬間、
「そういえばさぁ。おまえ、ウチの愛に、家庭教師(カテキョー)になってほしいみたいじゃんかよ」
と、無邪気に戸部くんが言うから、ペットボトルを激しくシェイクしたくなってくる。