アツマです。
ご無沙汰しております。
管理人が3日間の取材旅行から帰ってきたので、本日から更新再開……というわけ、なんですが、
「……葉山。いきなりおまえを接待せねばならん羽目になるとはな」
「『いきなり』ってなーに?? 戸部くん」
「おまえには関係のない話だ」
「そうは見えないわね」
「疑うな!」
「疑う~」
そう。
葉山むつみが、おれと愛の住んでいるマンションにやって来たのである。
今は晩飯を食い終えた直後だ。
仕事帰りのおれは正直ゆっくりと休みたかった。しかし、葉山が来てしまったので、休むヒマが無くなってしまった。
「葉山」
愛の隣に座っている葉山に、
「くたびれてるんですけど、おれ」
と言う。
「どうして?」と葉山。
「仕事したからに決まってんだろ」とおれ。
すると、どうしてか、葉山が急激に湿っぽい表情になり、
「そっか……社会人なのよね……戸部くん……なにもしてないわたしなんかより、100万倍頑張ってるのよね……」
と弱い声で言う。
マズい。
「こんなタイミングで無神経を発動させないでよっ、アツマくん」
愛が叱ってくる。
「葉山先輩が傷ついちゃったじゃないの」
ぐぐっ。
「いいのよ羽田さん……。戸部くんを許してあげて」
「でも、センパイ……」
葉山を追い詰めてしまった責任を感じ、ガバッと椅子から立ち上がる。
冷蔵庫に向かって行く。
メロンソーダのペットボトルとバニラアイスを取り出す。
新品のグラスにメロンソーダを注ぎ込み、バニラアイスを乗っける。
それからストローを差して、スプーンと共に葉山の席まで持って行き、
「ほれ、クリームソーダだ、葉山。おれの態度もいけなかった。謝る」
苦笑いになった葉山は、
「……ありがと」
と言い、
「戸部くん。ステキね、あなたって」
と言い、
「いつでも、優しい……」
と言う。
ここで愛が、何故かコホン、と咳払い。
「あのー、あんまり『ふたりだけの世界』に入り込まれても困るんですけど」
なんじゃそりゃ。
「大げさじゃっ、愛っ」
たしなめるおれ。
一方の葉山は、
「ごめんごめん羽田さん。クリームソーダを提供された喜びが大きかったから、つい」
と微笑んで言う。
「センパイとアツマくんが仲いいのは構いません。でも……」
「羽田さん」
「はい??」
「戸部くんとは――」
「え??」
「――やっぱいいや」
やにわに椅子から立ち上がる葉山。
右手にクリームソーダのグラス、左手にスプーンを持ち、リビングのほうを向き、
「わたしは本棚やCD棚を見ながらクリームソーダを堪能するわ。だから、羽田さんと戸部くんは、『ふたりだけの時間』を存分に楽しんでちょうだい」
「で、でもセンパイっ! わたしセンパイともっとお喋りが……」
すでに本棚手前のテーブルの前に腰を下ろした葉山は、愛に振り向き、
「夜は長いのよ? 羽田さん。お喋りなら、あとで幾らでもしてあげるから。……そうね。わたしは1時間半ぐらい本を読んだり音楽を聴いたりする。あなたたちは1時間半ぐらい恋人同士の時間を過ごす」
「――だってよ」
穏やかに優しく、正面の愛の顔を見つつ、
「『恋人同士の時間』っつーのも具体性がイマイチだが――葉山も案外、おれたち想いみたいだぜ?」
と言い、
「いいじゃねーか。葉山の言うこと聞いてやろうや」
と促す。
気づけば、愛が赤面している。
顔面を熱くさせつつ、ゆっくりと自分の席を立ち、おれの右横に座るため、椅子を引く。
× × ×
日付が変わったあとも、愛と葉山は話し込んでいた。
お喋りな先輩後輩同士を、おれはノンアルコールビールを飲んだりして眺めていた。
愛も葉山もおれにちょっかいを出してきたりしたから、退屈しなかった。
× × ×
で、ふたりはほとんど同時にウトウトとなって、ほとんど同時に寝息を立て始めた。
ソファで肩を寄せ合う愛と葉山。
カーペットから立ち上がるおれ。
「ふたりとも、黙ってたら美人なんだがなあ」
呟いたあとで、気恥ずかしくなる。
ほんの少しの後悔のあとで、
「……腹冷やすぞ。そのまま眠り続けたら」
と、美人ふたりが寝ていなかったら絶対に言えないようなコトバを呟いて、それから毛布を探すために寝室に歩いて行く。
戻ってきて、夢の世界のふたりの間近に立ち、毛布をふぁさ……と掛けてやる。