「アツマくん、今日はやや短縮版よ」
「1200文字ぐらいってこと?」
「そうよ」
「土曜日だけでなく金曜日にも短縮版とは。やる気が感じられん」
「『だれの』やる気が感じられないってゆーの」
「……ふんっ。」
「それと、『やや』短縮版なんだから、手抜きし過ぎてるわけでもないのよ?」
「擁護(ようご)、ご苦労さま」
「わたしだれも擁護してないし」
「ウソだぁ」
「そんな顔になんないで!! まったくもう」
「今日は明日のメインレースの話をするわよ」
「おまえ明日東京競馬場行くんだもんな。そのメインレースについて素人なりに講釈したいわけだ」
「『講釈』とか……まったくもう」
「お。『まったくもう』ってまた言った」
「明日の東京競馬のメインレースはダイヤモンドステークス」
「唐突に説明し始めるんだもんな」
「なんと距離は3400メートル。伝統の長距離のハンデ戦」
「G3だっけ」
「G3よ」
「日曜のフェブラリーステークスがG1だろ? 前座みたいな感じだな」
「でもね、馬券的には面白いのよ」
「『馬券的には』とか言いやがって。おまえに懇切丁寧にレクチャーした葉山の受け売りのクセに」
「ダイヤモンドステークスはね、荒れるのよ」
「波乱になるってことか? 理由あるんか」
「過去の結果が示してるわ。2010年以降に絞っても、2回大波乱があったのよ」
「人気のない馬が勝ったんか」
「人気のないどころじゃないわ。2012年のケイアイドウソジンは16頭中15番人気。2020年のミライヘノツバサは16頭中16番人気の最低人気!!」
「すごい配当だったんだな」
「特にミライヘノツバサの単勝は300倍以上ついたの」
「えーと、100円買ったら、300倍以上だから、3万円以上戻ってくるってコトだな」
「すごいでしょ」
「ただ、高配当を期待するあまりに、射幸心が……」
「あなたいったいどこで『射幸心』なんてコトバ知ったの」
「『射幸心』っつーコトバぐらい知っとるわ。ナメるなナメるな」
「へえ」
「なんだよ、雑に見てくるような眼になりやがって」
「京都競馬では、京都牝馬ステークスが……」
「ちょいまったー」
「はい!?!?」
「京都牝馬ステークスまで講釈してたら、際限がなくなっちまう」
「で、でも、ダイヤモンドステークスに勝るとも劣らないぐらい、重要で……!」
「おれの職場にな」
「あ、あなたのカフェがどうかしたの?」
「上司のおねーさんが居(お)られるんだが」
「……?」
「彼女がな。『わたしもときどき馬券買うけど、のめり込んだらゼッタイにダメだよね~~』って」
「ぐっ」
「覚えたてはだれでも熱を上げるのは当然ではあるが」
「さ、さとったみたいにっ」
「冷静に熱くなるんだぞ、明日は。おれと約束してくれ☆」
「や、やくそくなんか、いらないんだからっ!!」
「はしゃぐなよ~~、くれぐれも☆」