【愛の◯◯】「司馬遼太郎の出身校であることも知らないであの学部を受けるんですかっ」

 

「亜弥、きょうは短縮版だよ」

「えっ…どういうことですか、ヨーコ」

「だから、短縮版なの。土曜はブログの中の人が忙しいから、短縮版になることが多いの」

「そもそも…短縮版ってなんですか?」

「ブログの文字数が少なくなるんだよ。――きょうは、『1000字以内におさめてね~』というお達し」

「お達しって、だれからの?」

「え?? ――中の人。」

「な…中の人は…どこにいるんですか」

中にいるに決まってんじゃん

「……」

 

× × ×

 

「堅苦しく考えるんじゃないよ、亜弥」

「た、短縮版とか、初体験なので」

「お。『初体験』発言、きた」

「……なんですかその不埒な眼は」

「えーっと、せっかくなんで軽く自己紹介すると、わたしは小路瑤子、桐原高校放送部の準トップなポジション」

「勝手に自己紹介始めちゃうんだから……」

「ほら、あんたも自己紹介しなよぉ」

「……。猪熊亜弥です。放送部部長です。ヨーコがいつも、すみません」

「――だれに向かって謝ってんの??」

「不特定多数に、です」

「あー、ブログだから」

「…あの」

「なに」

「わたしたち、本来の目的を忘れていませんか?」

「放送部の活動??」

「そうです。…部活動のために、土曜なのにわざわざ学校に来たんですよね」

「いーじゃんいーじゃん、堅苦しいことは」

ヨーコ!!

「うへっ」

 

× × ×

 

「亜弥~、部活も大事なんだけどさあ」

「…?」

「もう6月じゃん」

「…それがなにか」

「鈍いねー。わたしたち、本格的に受験生だよ!?」

「まあ、たしかに…」

「ねぇ」

「…なんですか?」

「わたしね……亜弥の志望大学、知っちゃったんだ」

「なっ…!」

「第3志望まで知っちゃった」

「……覗き見したんですか!? 模試のとき」

「ま、そーゆーこと、かな」

「信じられない。ストーカーですか、ヨーコは」

「大げさだなあ~~」

「……」

「お、どしたどした、亜弥」

「……お返し、というか、なんというか」

「お返し?」

「つまりですね。あなたがわたしの志望校を知っているなら、わたしもあなたの志望校を知っているんですよ……と、こういうことであって」

「げ。教えた憶えないよわたし。どうやって知ったの、わたしの志望校」

「――司馬遼太郎の出身校ですよね?」

「……司馬遼太郎?? だれ、そのひと

これだから、ヨーコはっ

「え。知らなきゃマズかったの」

「ただ……司馬遼太郎のころは単科大学だったんですが、現在では某旧帝国大学に吸収されて……」

「あーっ、そういった経緯あったねぇ、そーいえば」

「某旧帝国大学の名前は、あえて開示しませんが……」

「が?」

「――ヨーコが大阪弁をしゃべる日が、待ち遠しいです

「――開示してるのと同じじゃん、それ」