『おはよう、創介くん』
『おはようございます、葉山さん』
『……』
『な、なんですか、その顔は』
『創介くんって……朝、弱い?』
『あ……ハイ』
『ダルそうだもんね』
『正直……まだ、あたまが立ち上がってません』
『わたしも、朝はべつだん強いわけじゃないんだけどね』
『ぼく、夜中まで、土曜のレースの予想をしていて……』
『熱心ねえ~』
『ことしの東京競馬も、今週で最後だと思うと、気合いが入って』
『キャピタルステークス(土曜の東京メイン)、わかる? わたし、さっぱりわかんない、お手上げ』
『――キャピタルステークスもいいんですけど、やっぱり今週、いちばん重要なのは』
『――ああ、ジャパンカップの話に、はやく移らないとね』
『前置きが長くなりすぎると、いけないので』
『わかっているわよ☆』
『……なんなんですか、そのピースサインは』
『さてさてっ。いよいよジャパンカップよ。三冠馬のラストランよ。
土曜8時54分現在の、コントレイルの単勝オッズは……1.7倍か。まだ土曜朝の段階だから……どんどんオッズは変動していくんだけど』
『……』
『あらどうしたのよ創介くん。神妙な面持ちね』
『いえ、コントレイルのこととは、ちょっとズレるんですけど……』
『なになに??』
『葉山さん、たぶん、ユーバーレーベンが本命なんだろうな……って、考えてたんです』
『よくわかったわね!』
『外国馬含め、牝馬は3頭いるんですけど……やっぱり、3歳牝馬のユーバーレーベンに眼が行きますよね』
『3歳牝馬は、前例があるから……アーモンドアイ(2018年1着)だけでなく、ジェンティルドンナ(2012年1着)、カレンブーケドール(2019年2着)、デニムアンドルビー(2013年2着)、古くはファビラスラフイン(1996年2着)、と』
『けっこう連対してるんですよね。ハープスター(2014年5着)とかウオッカ(2007年4着)とか、人気でダメだった例もありますけど』
『――考えてみると、ジャパンカップ、3歳が優勢じゃない?』
『世代によりけりな気も、するんですけどね』
『ことしの3歳はシャフリヤールとユーバーレーベンだけど。やっぱりわたし的には、男の子より女の子、川田よりデムーロよ』
『……。
馬券は、どうするんです? ユーバーレーベンから、馬連総流しですか?』
『よくわかったわね!?』
『葉山さんらしい買いかたは……総流しとか、そういうスタイルだと思ってるんで』
『ユーバーレーベンから馬連総流ししたあとで、コントレイルとの組み合わせを、厚めに買い足し。これで完璧よ!』
『……シャフリヤールとの『3歳どんぶり馬連』も、厚めにしといたほうがいいんでは』
『川田でしょ? シャフリヤール』
『……負けちゃいますよ、そんなに騎手の好き嫌いが激しいと』
『正直言って……コントレイルとシャフリヤール以外に、勝つイメージが浮かぶ馬が見当たらないんですよね、ぼく。外国馬は、未知数だけど』
『……マカヒキは? 創介くん』
『あ、単勝は、押さえます。応援で』
『15番から17番に、金子=友道馬が並んでるって、『サスペンス』っぽいわよね』
『サスペンス……ですか』
『怪しいじゃないの。……ワグネリアンなんて、ダービー勝ったときと同じ馬番』
『あーっ、そこはぼくも、かなり気になってたんですよ。ワグネリアンも、単複は少額で押さえます』
『……どうせならさ、ユーキャンスマイルも押さえちゃいなさいよ』
『複勝なら、ありそうですよね。大穴の3着』
『単勝も、買っちゃお?』
『たたた単勝ですかあ!? ユーキャンスマイルですよお!?』
『――先々週のこと、忘れちゃったの? エリザベス女王杯の、大波乱。競馬に絶対なんて存在しないわよ』
『で、でも、ユーキャンスマイルのアタマは、さすがに……!』
『創介くん』
『は……はい』
『あなたは、後悔が尾を引くタイプ?』
『……それなりに……』
『じゃあ、ユーキャンの単勝、100円押さえましょ? 150倍ぐらいに増えるわよ♫』
『……勝ったらの話ですけどね』