アツマくんの誕生日プレゼントを、まだ買っていない……!!
誕生日は明日なのに。
『買っていない』以前に、なにをプレゼントするのかも決めていない。
マズい。
これはマズいわよ。
本格的にマズいわよ。
わたし、彼のパートナーなのに。
これでは、パートナー失格の烙印を押されても仕方が無いわ。
なんとかしなきゃ。
と、いうわけで――。
弟の手が借りたい。
× × ×
「ハロー、利比古」
飯田橋駅。
やって来る弟に、手を振って挨拶。
「やけに元気がいいんだね、お姉ちゃん」
「元気が良かったらダメなの」
「誕生日前日にもなってようやく、アツマさんのプレゼントを買う……。そんな状況なのに、微塵も切羽詰まってない」
ビミョーな顔つきで弟は、
「開き直ってるように見えるんですけどね」
「そーとも言えるかもしれないわねー」
「これだから、お姉ちゃんは……」
「としひこくーーーん」
「く、『くん』付け!?」
「無駄口叩いてないで、歩きましょうよ」
ねっ?
わたしの愛しい弟たる、利比古くん♫
× × ×
「利比古くんは用意が早かったみたいねえ」
「だからどーして『くん』を付けるの。調子狂うよ」
「アツマくんの誕生日プレゼント、速攻で購入して」
「……お姉ちゃんが遅すぎるんだよ」
さりげなく利比古の手を握って、
「そうよね遅すぎなのよね。そこは反省だわ」
と言って、
「ねーねー、わたしプレゼントする『モノ』も決めてないのよ」
と言ったら、
「そんなことで大丈夫なの!? 明日に間に合うの!?」
「そこは、あんたのアドバイスよ」
「アドバイスって言ったって」
「アツマくんの23歳の誕生日に、パートナーであるわたしが贈るに相応しいもの。あんたは、なにが相応しいって思う??」
「急に訊かれたって」
「いま思いつかないのなら、歩きながら考えてよ」
「お姉ちゃんもだよっ!!!」
悲鳴のような声を上げる利比古。
怒られちゃったかー。
いつの間にか、読売巨人軍の本拠地が間近に。
「あそこにカフェがあるよね? とりあえず、コーヒーでも飲みながら相談するとかさ。お姉ちゃんはコーヒー大好きっ子だから、飲めば、いいプレゼント案も浮かんで……」
「なに言うの利比古。こんなとこでコーヒーなんか飲まないわよ」
「どうして」
「読売巨人軍の本拠地が丸見えじゃないの」
「そこ!? そこ、こだわるの!? いくら、横浜DeNAベイスターズの熱烈なファンで、ジャイアンツを敵視してるからって……!!」
「読売巨人軍はあの球場を1988年から使ってるわけだけど」
「……お姉ちゃん??」
「今年で37年目のシーズンってことでしょ? そろそろ、経年劣化も――」
「や、やめなよっ。いろんな方面から怒られるよっ」
慌てふためく弟は、
「横浜スタジアムはもっと昔から使ってるじゃないか。他球団のことなんか言える権利無いって」
「かわいくないわねー、利比古」
「……」
× × ×
「Bクラス♫ Bクラス♫ 読売万年、Bクラス♫」
「ヒドい替え歌だね。いい加減多方面から怒られても仕方無い……」
「阪神の替え歌はもっとエグいのよ」
「……ねえ。今日の目的、忘れかけてない?」
「あ!! アツマくんの誕生日プレゼント決めなきゃだった」
「決めて、買うんだよっ」
「わたしたちは現在、ちょうどよく神保町を歩いていて」
「もしかして、本? 本を、プレゼントに?」
「それもアリね」
と言い、
「でもその前に、コーヒーで一服しましょうよ」
と言うと、
「ドームが見えなくなったから、カフェに入ってもOKになったってことなの」
と、なぜかゲンナリとしたご様子で利比古は。
わたしは即座に、首肯(しゅこう)。
× × ×
「カフェの描写は諸事情でカット。今わたしは、某書店の文芸書棚の前に立ち、背表紙を眼で追い続けていて――」
「わけのわからないヒトリゴトを……。周りにお客さんが居ないからって」
「どひゃーっ利比古」
「それ、驚きのリアクションに全くなってないよね」
「あんたもちょっとこの棚を見てほしいの」
「文芸書のことなんか少しもわかんないんですが」
「直感、直感」
「お姉ちゃんみたいなインスピレーション、無いから」
わたしは即座に泣きマネをして、
「どうしてそんなヒドいこと言うの……こんなに悲しい気持ちじゃ、アツマくんにプレゼントする本も選べない……」
「ウソ泣き禁止だから」
落ち着き払って利比古は、
「ちょっとぼくについてきてよ、お姉ちゃん。文芸書もいいんだけど、アツマさんのためには、もっと相応しいプレゼント本があると思うんだ」