明後日は、お兄ちゃんの誕生日だ。
……悩む。
悩むというのは、プレゼントのことについて。
まだ、買っていない。
踏み切れない。
先月。沈んでいたわたしを、お兄ちゃんは優しく慰めてくれた……。
あまりにも優しく包み込まれたから……だから、誕生日がすぐそこに迫っているのに、プレゼントするモノを選び切れないでいるのだ。
半端なプレゼントじゃ、お兄ちゃんの優しさと釣り合わないもん。
起床した直後に、部屋の中をぐるぐる歩き回り始めたわたし。
お兄ちゃんの優しさと釣り合うようなプレゼントって、なに!?
考え込んで、悩みまくり、歩き回りまくる。
やがて疲れてしまって、ベッドにへなへなと座り込み、わたしの愛するゆるキャラ『ホエール君』のぬいぐるみを抱きしめる。
ギュウッ、と抱きしめて、それからそれから……横向きに寝転んでしまう。
× × ×
シャワーを浴びた。
雑に髪を乾かし、タオルを首にかけたまま、リビングへ。
しかし、利比古くんただ1人がリビングのソファに座っていたから、慌てて引き返し、タオルを洗濯機に入れたあと、再びドライヤーを洗面台のコンセントに接続する。
そして、リビングに戻ってきたわたし。
ちゃんとなってるように見えてるかな。
「ねえ、利比古くん。ほんの少しだけ、わたしを見て」
「わかりました」
即答の利比古くんがわたしを見る。
「変な感じ、しない?」
下向き気味にわたしが訊く。
「え? いつも通りじゃないですか」
「髪が飛び跳ねてたりとか……」
「まさかぁ」
彼は苦笑。
わたしは利比古くんとかなーり距離をとってソファに着席した。
「あのさ、利比古くん」
「なんでしょーか」
「もしかしたら、わたしの兄への、誕生日プレゼント……」
「用意してますよ。もう既に」
「……」
「あれっ。あすかさーん??」
「と、と、としひこくんって、おかしなところで、マジメだよねえ」
「えーっ??」
「実の妹のわたしより早く、プレゼント、用意してるんじゃん」
「あすかさんは、まだなんですか」
「情けないけど、出遅れちゃったの」
「明後日ですよ? 早急に買いに行かなければ」
「それはそうだけど、品物を、まだ決めてない……」
「だったら」
彼はソファから立ち上がって、タブレット端末を携(たずさ)え、わたしに接近してきて、
「この端末貸しますから。品物決めに役立ててくださいよ」
とりあえずわたしは端末を受け取る。
だけど、端末はひとまずテーブルに置いて、
「まずは、利比古くんの『ご意見』が聴きたいかな」
「『ご意見』?」
「そ。あなたにレコメンドしてほしいの。で、レコメンドされたものを、ググるなり、アマゾンとか楽天とかでチェックするなりして……」
「ぼくのレコメンドで、いいんですか?」
「時間も無いし、それ以上に――」
わたしはカラダの姿勢を微調整して、
「今のあなたは……頼れる、から。」
「それって。つまり」
彼が、
「あすかさんの中で、ぼくの評価が……」
と言うから、
「上がった、ってことだよ」
と、コトバを継いであげる。
評価。
『上がった』どころじゃなくって。
『絶賛急上昇中』、なんだけど。
シャワーを浴びたばっかりだったから……そこまでは、言えなかった。