【愛の◯◯】3月最後の、アツマくんと利比古からの『挟み撃ち』

 

ベッドでゴロゴロしていたり、珍しく、午前中、ダラダラと過ごしていた。

 

寝起きみたいな感覚で、階下(した)に行く。

 

 

「ふあぁ」

「こら、だらしがないぞ、愛」

顔を合わせるなり、アツマくんがたしなめてくる。

「気の抜けた声出しやがって」

「わるかったわねぇ」

「悪すぎだ。きょうで3月も終わり。ということは――」

「『あしたからおまえはもう大学生なんだぞ』って言いたいんでしょ」

「さ、先取りしやがって」

「『気を引き締めろ』、と」

「……少しはな」

「お互いさまよ、アツマくん」

「……フンッ」

「どっちがたくさん単位を取れるか、競争よ」

「あっそ!」

「どうせ、わたしがフル単で勝利することになるんだろうけど」

「うっさい!」

 

そこに利比古がやってきて、

「お姉ちゃん、お昼ごはん、どうするの?」

「そーねぇ。珍しいことに、なんにも考えてなかったわねぇ。

 ……店屋物(てんやもの)で済ませましょうか」

 

アツマくんに向かって、愛情いっぱいに微笑みかけて、

「電話……かけてくれる? お店に」

「おれがかけるのかよっ」

「いやがらないでよ」

「アクビをしながら部屋から下りてきたと思ったら、おれをこき使う……」

「こき使ってはないでしょ」

「あー、あー、もう!! 電話すればいいんだろ、すれば!!」

「なにが食べたいか決めてからね~」

「くうう……」

 

× × ×

 

そんなこんなで、

出前をとった。

 

いまは食後のコーヒータイム。

あすかちゃんは、食べ終えるなり、センバツの準決勝があるから…と、テレビのところに移動していった。

ダイニングテーブルにいるのは、わたしと利比古とアツマくんの3人。

 

コーヒーを飲み干したわたしは、カップをカチャン、と置くなり、

「……ヤスアキ

と嘆く。

嘆かずにはいられなかったのだ。

一夜明けても。

「ヤスアキって、山崎康晃かよ」とアツマくん。

「そうに決まってるでしょ」

「ヤクルトに逆転されたんだって?」

「この1敗は、痛いわ……」

「……ずいぶんな、落ち込みようだな」

「3回ヤクルトに負けた気分よ」

「お、おう……」

「いまのヤクルトに、負けるのよ!? い・ま・の・ヤクルトに負けるってことが、どんなに痛いか……!」

「でもペナント始まったばっかじゃんか」

「そういう問題じゃないの、アツマくん」

「監督が代わったのとかも、影響してるんじゃ」

わたしは首をぶんぶん振って、

「それこそ、三浦大輔政権はまだ始まったばっかりだけど。

 番長の、監督としての資質うんぬんは、別にして、

 高津臣吾が監督の球団にだけは……負けたくない」

「ど、どーゆーことかな」

ぜったい、ぜったい、三浦大輔のほうが、高津臣吾より、名投手だったし!!

「……また、根拠があやふやな発言をしやがって」

高津より番長のほうが偉いんだもん

「だからぁ、根拠がないよな?」

ひどい、ひどい、アツマくん、わかってくれないの

「わかるもなにも……」

 

一気に困り顔のアツマくんは、いいとして、

「――ごめん、利比古、置いてけぼりにしちゃったね」

「いいんだよ。お姉ちゃんとアツマさんのやり取り、いつも面白いから」

面白がってくれた。

やった~。

「……あすかさんがいてくれてたら、もっと盛り上がるんだけどね」

「仕方ないでしょ。彼女はセンバツを観る『使命』があるんだから」

「校内スポーツ新聞の記事のために、だね」

「毎日フル稼働で――すごいよ」

 

「愛もあすかを見習えよな」

「わたし、そんなにダラけて見える!?」

「もっと、がんばれるだろ、おまえは」

「……べつに怠けてなんかないし」

「愛、おまえはこの1ヶ月、なにをした?」

「――卒業して、髪を切った」

そういうことじゃねえっ

「なにをがんばったか、ってこと? いろいろやってるんだけど、わたし」

「だーかーらー、その『いろいろ』の中身を言えってことなんだよ!!」

 

むか~っ。

 

「いっしょに暮らしてるのに、ずいぶん見えてないのね、わたしのこと。

 ショック」

「突っぱねやがって。そんなだから、横浜も負けるんだ」

野球は関係ないでしょ!! 脈絡もないキレかたしないでよ!!

「おれはバイトをがんばってる。あすかや利比古はクラブ活動をがんばってる。

 で、おまえは具体的に、なにをがんばったってんだ!?」

 

ムカムカするような言いかたは……やめてよ。

 

明らかにイラつき状態なアツマくんと、にらみ合い……。

険悪。

 

そこに、

「まぁまぁ、落ち着いて、ふたりとも」

 

「利比古」

「利比古」

 

「お姉ちゃん、入学式前日に、血圧上げちゃ、よくないよ」

「……たしかに、そうね」

 

利比古を置いてけぼりにしちゃ、いけないし、

ここは……わたしから、引き下がるか。

 

「アツマさんも、お姉ちゃんのいじめすぎは、よくないですよ」

「すまん……言い過ぎた面はある、正直」

 

利比古がアツマくんをたしなめるのは、非常にレアケース。

 

「いくら、きょうのお姉ちゃんが、不真面目な感じだからって」

 

――利比古!?

 

「ふ、不真面目ってなにかな、利比古」

わたしの問いかけに対し、

「なーんかね、きょうのお姉ちゃん、『ひときわ』不真面目に見えちゃうんだよね」

「わっ、わたしが……なにか、よくないこと、してたかしら??」

「――ぼくは思いつくけど、言おうか?」

やめてっそれはやめてっ

瞬時にすがりつくしかないわたしに、

「そういうあわてぶりに、出ちゃってるね……不真面目さが」

としひこぉ

「……だけど、なんだかんだで面白いから、無理に真面目になろうとする必要もないと、思ったりも」

「どうしてほしいの……? あんた、わたしに」

「どうもこうもないよー」

……苦笑して、わたしの弟は、

「入学式に遅刻だけは、やめてね」

「しっ、知ってるでしょ……? わたしが、早起きだって」

「あ~」

「……」

「早起きなところだけは、真面目だって、認めてあげるよ。

 アツマさんも、そこは認めてあげてくださいね?」

 

 

なにそれ、

なによそれっ。

 

利比古の頭を、フライ返しで叩きたい気分!

――叩かないけどっ。

 

決めた。

あしたは4時半起き。

 

だれよりも早く起きて、アツマくんと利比古を――叩き起こしてやるんだから!!