利比古の部屋をノック。
すぐに開けてくれる利比古。
「――部屋が、いつもよりキレイじゃないの」
「わかる? 年越しの前に、じぶんの部屋をちゃんとしておこうと思って」
「掃除したのね」
「したんだ」
「さすが、わたしの弟だわ」
某FMラジオ局の放送が聞こえる。
「FM聴いてたのね」
「さいきん、FM、よく聴くんだよ」
「FM聴くのは、いいんだけど…」
「?」
「この局の選曲より、もっといい趣味してる局が、首都圏エリアにはあるから。そっちに周波数を変えましょうよ、利比古」
呆れたような表情になるわたしの弟。
どうして。
× × ×
弟とふたり、肩を並べ、ベッドの側面にもたれかかりながら、趣味のいいFM局の流す音楽を聴いていた。
そしたら、弟が、
「ねえ、お姉ちゃん」
「なあに」
「あすかさんが、今朝…」
「今朝?」
「今朝……、なんだか、ぼくに、優しかった」
あ~~ら。
「どんなふうに優しかったの?? 具体的に話してちょうだいよ、利比古っ」
「せっ説明するのは難しいよっ」
「難しくっても!!」
「そんなあっ」
× × ×
アツマくんの部屋をノック。
入る。
……あまり、きちんとしているとは、言えない部屋。
「利比古の部屋のほうが、断然キレイだわ」
「まあ、それはそうだろ」
「…もっと年越し気分になってよ、アツマくん」
「年越し気分?」
「やる気出して、片付けて。わたしも少しは手伝うから」
言ったそばから、手を動かし始めているわたし。
× × ×
「――そこは、おまえの背の高さじゃ、手が届かんだろ。おれがやってやる」
「こーゆーところにエロ本は隠されてるのよね」
「アホ言うな」
「隠してないって、証明できる?」
「しょーめーしてやるよ」
……ほんとうになんにもなかった。
「そんな……!!」
「いったいなにを期待していたのか。アホだなー、おまえも」
「そ、それ以上、『アホ』って言ったら、パンチするわよ」
「アホ」
「な、なんなのよ、あなた!!!」
たまらず、アツマくんの上半身を連打するが、
「痛くも痒くもないですよ~だ」
「ふっふざけるのもいい加減にして」
「掃除、続けようぜ?」
「あなたをポカポカ殴るほうが先よ」
「もうじゅーぶんポカポカしてるだろ」
あー、もう!!!
なぜか、なぜか――アツマくんを押し倒しているわたし。
「愛、あぶないあぶない」
「あなたって、ほんとバカ」
「掃除はどこ行った。スキンシップ大会、したいってか」
「……」
「おまえはほんっとーに、おれの上半身が好きだなあ」
「!!」
× × ×
あすかちゃんの部屋。
「さっき、アツマくんを、しこたまビンタしちゃった」
「どうせなら、108回ぐらい叩いちゃってくださいよ」
「煩悩?」
「煩悩。」
「いいわね」
「いいでしょ」
× × ×
「――さて、そろそろお蕎麦茹でて、天ぷら揚げるとしましょうか」
そう言って立ち上がった。
が、
「あっ、キッチン行くのはちょっとだけ待って、おねーさん」
と、あすかちゃんに引き留められた。
「なに? どーしたの?」
あすかちゃんは、正座する。
慌ててわたしも、正座する…。
「…あすかちゃん?」
「おねーさん。」
「……??」
「今年も1年、お世話になりました。
来年も、よろしくおねがいします。」
あらたまった口調で言われた。
ペコリと頭を下げられた。
わたしは感謝する。
「……ありがとう。あすかちゃん」
× × ×
来年も、よろしく。
来年も、よろしく、か。
……うん。
× × ×
みんなには、ナイショのこと。
この1ヶ月で、
ひとり暮らしに関する、ハウツー本を、
50冊以上……読んだ。