昨日今日とお風呂に入っていない。
処理できなかった生ゴミの臭いが部屋に漂っている。
不潔。
× × ×
汚いわたしはひたすらベッドに横たわり続けている。
いっさい外に出ることなく引きこもり状態。
……引きこもりの寝っ転がりで、ひたすらひたすら、利比古に史上最低最悪の態度をとってしまったことを悔やむ。
電話で、最愛の弟をあんなふうに怒鳴りつけるなんて、わたしマジでどうかしてる。どうかしすぎ。
ムクムクと、周期的に湧き上がってくる自己嫌悪。
自己嫌悪から、破壊衝動? みたいなものが誘発される。
すべてイヤになって、なにもかもをメチャメチャにしたくなって。
大声こそ出さないものの、いまにも暴れだしそうになった挙げ句……掛け布団を蹴っ飛ばしたりした。
ジタバタしてもどうにもならないのに、ジタバタしてしまう。……もちろん、ベッドの上でだけで。
無惨に散らかりまくった空間をどうすることもできない。
生臭い臭い。
× × ×
それから、アツマくんとのデートがうまくいかなかったことを思い出してしまって、悲しくなる。
いままでにないほどすれ違った。
アツマくんの手にすら上手く触れられなかったデート。
スキンシップ失敗。
触れられなかったことで、彼との距離が、地球の端から端までぐらい遠くなった錯覚を覚えて。
「もう、どうしようもねえや」って、アツマくん、たしか言ってた。
いろいろあきらめたようなアツマくんの横顔が、まざまざと脳裏に浮かぶ。
あきらめるってことは。
わたしのことまで……手放しちゃうのかも。
不安。
……絶望。
× × ×
夕暮れの不潔なマンションの部屋の天井。
…天井を見上げながら、わたしはつぶやく。
「失恋しちゃったのかな……わたし」
× × ×
暗くなってきた。
容赦なく。
部屋の照明をつけていない。
照明をつける気力もない。
闇に呑み込まれる。
わたしの部屋、お化け屋敷みたいになっていきそう。
ゴミ屋敷の、お化け屋敷か……と、ちからなく笑ってしまう。
もう、起き上がれそうにないな……。
そう、思い始めたときだった。
玄関ドアから、音が聞こえてきた。
ガチャガチャ、ガチャガチャ。
紛れもなく、
わたしの部屋の玄関ドアのカギを、
あける音。
え……?
空き巣??
ど……どうしよう、どうしたらいいんだろう、
110番!? 110番!?
テンパって、テンパって、思わず身を起こした。
姿を、
現したのは、
アツマくんだった。
?!?!?!
「……どどど、どうして、あああアツマくんが、部屋のカギ、あけられるわけ」
「こら、もうちょい落ち着けや、愛」
「お、お、お、落ち着けるわけない」
「でも落ち着け」
「そ、そ、そんな無茶な」
「――合い鍵だよ。合い鍵」
あ、ああっ。
「憶えてねーのか? 母さんに合い鍵作らされただろ?? この部屋におまえが住み始めるとき」
「――そうだった。」
――アツマくん、どんどん、どんどん、わたしのベッドに接近してきてる。
わたしは恥ずかしくも、
「ちょ、ちょっとまって、いま、わたしのほうに近づくのはやめてっ」
「なんでだぁ」
「だって……だって、わたし、クサイ、キタナイ、不潔」
「なぜ??」
「お風呂入ってないのっ、にゅーよくしてないのっ、きのうからっ」
彼は、苦笑いの、ため息。
「――じゃあ、社会的距離を、とらせてもらうとするか」
「……」
× × ×
社会的距離でもって、アツマくんは床に腰を下ろして、
「あすかが、すぐ来てくれるからさ」
と言う。
「あすかちゃんも……?」
「ああ。
おまえをキレイにしてくれるよ、あすかが。だから、もうちょい待ってろ」
「……」
「おい、どーしたよ」
柔らかなアツマくんの声。
久しぶりの彼の優しさ。
その優しさで、
自然と、眼に涙が……たまってきて。
「泣かせちまったか。
悪かったな……いろいろ」
「ううん。
わたしだって……」
× × ×
あすかちゃんはすぐに駆けつけてくれた。
お風呂でわたしのからだを洗ってくれた。
アツマくん&あすかちゃんの尽力により、以前のような清潔さを部屋はどうにか取り戻した。
「はい、これで元通り」
100パーセントの笑顔で、あすかちゃんがわたしを見ながら言う。
くすぐったい笑顔だ。
だけど、嬉しい。
「おねーさん」
「……なあに、あすかちゃん?」
「今夜は」
「今夜は?」
「いっしょに寝ましょう。――お兄ちゃんと、わたしと、3人で。」
「えっ、えっ、3人で寝るって――どうやって」
「つべこべ言わない。」
「た、たしなめられちゃった、あすかちゃんに」
「てへ。たしなめちゃった」
アツマくんの真横で……ペロリと舌を出すあすかちゃん。