【愛の◯◯】ぼくとわかり合うアツマさん ぼくを苦しめるあすかさん

 

ドッカリと、アツマさんが、リビングのソファに身を委ねている。

くたびれているみたいだ。

くたびれアツマさん。

 

「――大丈夫ですか、アツマさん」

「おぉ……利比古」

「就職活動……すごく大変みたいですね」

「大変だ」

アツマさんはグッタリと、

「周りに、どんどん内定が出てる……。うまく行ってる人間と、どうしても、比較しちまって」

辛そうだ……。

彼は、虚ろな眼で、天井を見上げ、

プリキュアを……観る気力もないぐらい、消耗してる」

と言う。

 

「…アツマさんって、」

「んっ?」

プリキュアに、けっこうこだわってますよね」

「そ、そうかな」

「日曜の朝、いつも、テレ朝にチャンネルを合わせてる気がします」

「す、するどいな、オイ」

「…そして、スーパー戦隊が終わると、テレ東にスイッチする」

「て、テレ東は、ときどきだ、ときどき」

「ミュークルドリーミー……でしたっけ?」

「……ミュークルドリーミーなら、終わっちまったよ」

 

くわしい。

 

「ミュークルドリーミーが終わっちまうなんて……夢も希望もないよな。ドリーミーだけに」

意外にサンリオ男子なアツマさんが、ソファから重い腰を上げる。

リビングを去ろうとするアツマさん。

彼に、ぼくは近づく。

「どうした……利比古?」

「あの」

ぼくは、優しく、

「応援してます、ぼく。アツマさんの就活が、うまく行くことを願って」

アツマさんと見つめ合う。

「夢も希望も――たぶん、ありますよ」

そう言って、笑顔で向き合う。

…そんなぼくに対して、

「ありがとよ。恩に着る」

と感謝のことばを投げかけて……それから、ぼくの頭にポン、と手を乗せる。

 

× × ×

 

アツマさんは、やっぱり素敵だ……と感慨にふけっていると、

「――兄弟だったね。まるで」

というお声。

あすかさんが、いつの間にやら、リビングに来ていたのだ。

「あすかさん。『まるで』、は必要ないですから」

ぼくのささやかな反発に、

「ふーん。…義兄弟、ってことかぁ」

「まあそんなところです」

「義兄弟の絆、か」

「悪いですか?? ぼくとアツマさんが、義兄弟の絆で結ばれているのは」

「悪いなんて言わない言わない。むしろ――」

「むしろ??」

「観察のやり甲斐があるというか、なんというか。――楽しいよね」

楽しい、って。

「……なにが、楽しいんですかっ」

あすかさんは意味深なニヤけ顔で、

「……男同士、じゃん?」

「そ、それが……なにか」

にぶ~~い

あすかさんっ!!

 

× × ×

 

「ね、ね、茶番劇はやめてさ」

「…はい?」

「利比古くんに提案」

「提案…」

わたしの部屋、来てくんないかな

 

「なぜに……!? 唐突な……!!」

 

「頼むよぉ」

「理由……理由を、」

なんとなく

「こ、困ります!!」

「わたしもねー、兄貴ほどじゃないけど、案外くたびれてるんだー」

「……くたびれてるのと、ぼくを部屋に入れようとすることに、どんな因果関係が!?」

なんとなく

 

なっ……!

 

「あ……あすかさん、3度目の『なんとなく』は、ナシですよ」

「え、どゆこと」

「『なんとなく』を多用するのは、ズルいと思います……」

「えー」

「…。わかりましたから。行きますから、あすかさんのお部屋!」

「おおぉ、折れてくれたか」

 

どんよりとした気分になり始めたぼくは、

「いったい、なにがしたいんですか」

「わたしの部屋で?」

「そうです。…雑談ですか? やっぱり」

「いいねえ、雑談。ストレス発散にもなる」

「なんですかストレス発散って。ストレスのはけ口が、ぼくってことなんですか」

「不満?」

 

不満もなにも……。

 

「……ぼくにストレスをぶつけるのなら、3つに絞ってください」

毅然と、言う。

「3つに絞るって、どゆこと、利比古くん」

「ですからっ!

『ストレスを感じている点を、3つピックアップして、その3つについて、あまり長くならないように説明してください』って、こう言ってるんですっ、ぼくは」

「利比古くんも…なかなか面倒くさいこと考えてるね」

「……」

「ストレスフルなのって、もしかして、むしろ、利比古くんのほうなんじゃ」

だれのせいですか

「ウワッ」

「あすかさんも少しは考えてくださいよ。じぶんの胸に手を当てて、反省して……」

「胸に、手を!? それは問題発言だよ。わたしがわたしのオッパイに、ってことでしょ!? ハラスメント、ハラスメント」

 

 

……きょうは、もう、

あすかさんと、眼を合わせない。