【愛の◯◯】ぼくとアツマさんは『義兄弟』なんですから

 

姉がひとり暮らしを始めた。

 

姉がひとり暮らしを始めたので、姉の部屋はもぬけのからになった。

 

朝。

起きて、じぶんの部屋を出る。

姉の部屋の前を通りかかる。

ひっそりとしている。

ひっそりとしているから……お邸(やしき)のメンバーが6人から5人になったことを実感する。

 

× × ×

 

流さんが作ってくれた朝食を食べたあとで、リビングに向かい、ソファに座る。

そして、KHKの活動用のノートを開き、次に制作する番組に関することを書き足していこうとする。

 

……スマホに来る通知。

 

通知は、姉からの画像添付メールだった。

 

『おはよう利比古!

 ちゃんと起きてる!?

 わたし、朝ごはんを作ったの。ひとり暮らしで最初の自炊。

 せっかくだから、朝ごはんの写真を送るわ。

 

 映えてるかしら??』

 

姉の朝食画像を見る。

パン、サラダ、目玉焼き……洋風の朝食。

もちろん、ブラックコーヒーの入ったマグカップも写りこんでいる。

映えてる食事だ。

 

ひとまず、ちゃんと生活できているみたいで、安堵する。

 

× × ×

 

あすかさんがやって来た。

 

「なにを見てるのスマホで? 利比古くん」

「姉からのメールです。姉の作った洋風モーニングの画像付きです」

「えっマジ」

 

ぼくからスマホふんだくるあすかさん。

 

「…ひとのスマホを乱暴に扱わないでください」

「うわあ~~、おいしそ~~~」

聴いてますかあすかさん!?!?

「びくっ」

 

「びくっ」、じゃないですよ。

ほんとうに、あすかさんは……!

 

「でもなんで、わたしには朝食画像送ってくれなかったんだろ」

「……日頃の行いが悪いからじゃないですか!?」

「えーっ、そうかな」

「あすかさん。あすかさんは、じぶんのスマホをいま持ち歩いてないですよね?」

「うん。部屋」

「それだったら、部屋にあるあすかさんのスマホに、朝食画像が届いてきてるかもしれないじゃないですか」

「利比古くんの言うとおりだ! 確認しなくちゃ」

「どうぞ確認なさってください」

「ラジャー」

「……」

 

疲れるなあ……。

 

× × ×

 

こんどは、アツマさんが登場。

 

「利比古、どうだ? ――愛が邸(いえ)からいなくなっちまって」

「ちょっと、違和感はあります」

「おまえにとって、愛は実の姉なんだ。さみしくなることだって、これから先、あると思うんだが」

「それは――アツマさんも、おんなじじゃないですか」

「おれはあいつと兄妹でもなんでもないけどな」

「だけど……」

 

アツマさんは苦笑して、

「さみしさは、否定できない。だけど、中野区だったら、ここからさほど遠くないんだし。会おうと思えば、会おうと思ったときに会える」

「…たしかに」

「それにな、愛がこの邸(いえ)から抜けたからって、名残惜しく思ってるばかりじゃダメだと思うんだ」

「…わかります。姉の選択を、決意を、尊重して。

 そして、ぼくたちは、ぼくたち自身のちからで、生活していかなければならない」

苦笑いのアツマさんは、

「オイオイ、気負いすぎるなよ、利比古。

 おれも、おまえの助けになってやるんだから。……な?」

「ありがとうございます……。

 ほんとのほんとに頼もしいです、アツマさんは」

 

信頼の気持ちで、肩の荷が下りていく。

 

× × ×

 

「やっぱり送信してくれてた!! おねーさんの自炊朝食画像」

 

そう言いながら、あすかさんがリビングに戻ってきた。

 

ソファの、ぼくとアツマさんコンビを見て、

「…仲良しムードだね」

ぼくはあすかさんに、

「仲良しムードとは、斬新な言葉づかいをしますねえ、あすかさんも」

「ん…」

 

「いつも仲良しなんですから、ぼくとアツマさんは。……ですよねえ? アツマさん」

「おうよ」

即答してくれるアツマさん。

こうでなくっちゃ。

「信頼の絆で結ばれてるんですから――ぼくたちは」

「だな。もはや『義兄弟』だなっ!!」

 

 

ほらほら……。

そんな眼つきをするもんじゃないですよ、あすかさん?