あっ。
あけましておめでとうございます。
2022年、ですね。
平成は、ますます遠くになりにけり……といった感じで。
令和4年ですよ。
お間違えなく。
あっ、名乗り忘れるとこだった。
アツマです。
× × ×
正月といっても、日常とさほど変わらない。
ニューイヤー駅伝を観たり観なかったりしながら、大広間のソファでだら~んとくつろぐおれであった。
愛は、利比古の部屋に行って、きょうだい仲睦まじくしているらしい。
あすかはあすかで、部屋に引きこもってPCのキーボードを打ちまくり、校内スポーツ新聞の記事を書き散らしまくっているようだ。
つまり、いまのところ、おれの1月1日は、平穏で平和である。
× × ×
……ところが。
そうは問屋がおろさない、と言わんばかりに、ゆっくりと、しかし確かな足取りで、母さんが、おれのソファに接近してきたではないか……。
「アツマ、アツマ、」
なんだよ母さん。
いかにも不穏だぜよ。
「――なんか、企んでないか? 母さん」
「な~に言ってんのよ~」
「信用が置けない」
「そこは、置いてちょうだいな」
「……」
「アツマに、いいものあげる」
「……?」
「――お年玉よん♫」
「お年玉って。
おれ、いくつだと思ってんの、母さん」
「まだハタチ」
「『まだ』じゃねえよ。『もう』だろ。それに、あと3週間したら、21歳なんだぞ」
「アツマぁ」
「……どうしても、受け取ってほしい、と?」
「そうよぉ」
「……それは、もしかして、一種の『明日美子パワー』か?」
簡単に説明しよう。
母さんの『明日美子パワー』……このパワーは、戸部邸において、いちばん強いパワーであって、だれも逆らってはいけないことになっている。
母さんが笑いながら「明日美子パワー」と言ったら、母さんに絶対服従だ。
「よくわかったわねアツマ。そうなの、明日美子パワーなのよ」
「……」
渋々にお年玉袋を受け取る。
「たくさん入ってる……気配がするんですけど」
「入ってる。いっぱい」
「これで、いったい、なにをしろ、と」
就活用スーツを買えとでも言うのか。
それなら、とっくに間に合ってんぞ、母さん。
やがて母さんは――言った。
「愛ちゃんと、デートに行ってきなさいよ☆」
な、な、
なんだそれ。
「うろたえなくてもいいのにぃ☆」
「い、い、いつ、愛とデートしろってんだあ」
「あしたとか、どう?」
「い、いきなりすぎんか」
「そう? ――自由に決めていいけど」
「…母さん」
「んー?」
「デート、にも……『明日美子パワー』の、効力が……」
「かかってるに決まってるじゃないの☆」
× × ×
あすかが来た…。
「なーに下向いてんの、お兄ちゃん? まるで、ションボリ兄貴だね」
「……ウルセッ」
「おお、新年1発めの、捨てゼリフだ」
「お年玉が、逆にプレッシャーになったみたいなのよ、この子」
「母さんのせいだろっ」
「そうとも言うわねぇ」
「……泣きたくなってくる」
「あら、ハンカチ、要る?」
「要らねえっ」
黒々とした笑い顔で、あすかは、母親と息子の茶番劇を眺めている。
母さんにしても、妹にしても、いくつになってもいくつになっても……!
× × ×
「おか~さ~ん、わたし、おなかすいちゃった~~」
「コラあすか、そんなに甘えた声出して、甘えんな。今年はおまえも大学入学――」
「お兄ちゃんだって、おなかペコリーヌでしょ??」
「ぺ、ペコリーヌ!?!? 女子高生用語かなにかか!?」
「ちがうちがう」
「違うんなら、なんなんだよ」
舌をペロッ、と出して、知らんぷり。
どアホがっ…!
「――OKよ。あすかのリクエストに、応えてあげる。アツマも飢えてるみたいだし」
「やった~!! お母さんのごちそうが、食べられる~~!!」とあすか。
「……飢えてねぇよ。」とおれ。
にゅうっ、とおれの顔を覗きこみ、母さんが言う。
「なんだかアツマのほうが反抗期みたいね。お兄ちゃんなのに」
「ちっ」
「反抗期が、遅れてやってきたわけか」
「『お祝いしなきゃ~~』とか、言うつもりだろ」
「どうしてわたしの言うことを先読みできるの!?」
「…息子だから」