冬のカラスが騒ぎ立てている。そんな朝。
窓の光が爆睡中のアツマくんに降り注いでいる。
朝のカラスよりもだらしないアツマくんの掛け布団を剥ぎ取る。
「ふみゃ」
謎の擬音を発してアツマくんが眼を覚ます。
寝ぼけさせるわけにはいかず、身を起こした瞬間に、彼の両肩をがっちりと掴んで、
「おはよう。さっそくだけど、顔を洗いなさい」
と指令。
「今何時? もう少し寝かせてくれんの」
「ダメよ。寝させない」
両肩を押さえつけて、
「仕事が休みでも早く起きてよ。クリスマスなんだから」
「だけど、いちばん盛り上がるのは昨日なんだし、クリスマスは9割終わってて……」
「バカじゃないのあなた!?」
早々に『バカ』というコトバを発してしまったわたしは、アツマくんを揺すり始め、
「わたしたちのクリスマスはまだ始まってもいないじゃないの」
揺すられても依然眠そうな彼は、
「北野武の映画の名ゼリフみたいなこと言うのな」
「え……?? なに、それ」
「わからんかー」
「わからない。映画なんか全く観ないし」
「映画はおまえの弱点だな」
「じゃ、弱点なのは認めるから、早く洗面台にっ!!」
× × ×
「せっかく丸一日仕事が休みなんだし、映画館におまえを連れて行くのもいいな」
「やだ」
「そんなに映画館が嫌いか」
「キライ」
「食わず嫌いの女王様だな」
「はぁ!? 女王様じゃないし」
ムカムカして、
『わたし以外開けるの厳禁』
というシールを貼った引き出しを開け、『アレ』を取り出す。
床を強く踏みしめながらアツマくんに接近し、すっ、と『アレ』を差し出す。
「赤と緑のツートンカラー」とアツマくん。
「そうよ。もう分かるでしょ、わたしの一連の行動の意味が」
「ベッドの下に隠しておくとか、もうちょい気の利いた準備はできんかったのか」
「黙りなさい」
『アレ』の袋を手渡し。
袋をバリッと開けるアツマくん。
靴下が中から出てくる。
「クリスマスプレゼントにしては、スケールが――」
「なにゆーのよっ。スケールが大きければいいってもんじゃないでしょ」
「まぁなあ」
彼は靴下をしげしげと見て、
「5組で1万5千円か」
と言い、
「靴下の相場は分からんが」
と言い、
「大事に履かんといかんわな」
「そうよ。大切に履いてよね?」
「ウムウム」
彼がわたしに一気に距離を詰めてきた。
彼がわたしの頭頂部に右手のひらをくっつけた。
彼の右手のひらの暖かさがジンワリと沁み込んできた。
「わ……わたし、お昼ごはんの支度、始めたいかなーって。今日のは、時間かかるから。だから、こういう体勢だと、キッチンに向かえないかなーって」
「わかってるわかってる」
ギュッと右手を押し付けた彼は、
「期待してる」
と。
× × ×
ほとんど食べ終えた。
いろいろなお料理を作ったのだが詳細は省くとして、
「どう!? 美味しかった!? わたしは我ながらよく出来たと思ったけど、あなたはどうだった!?」
と、前のめりで顔を近づける。
「落ち着けや、とりあえず」
「質問に答えて」
「んー?」
「とととトボケないで」
「98点」
「そ、そ、それって、100点満点の……」
「あたり前田健太だ」
彼のオヤジギャグすらも全部嬉しくって、
「ずいぶん高く評価するのね!? あと2点がどこに行ったのかは知らないけど」
「ローストチキンの皮」
「……皮?」
「皮がパリッとしてた。おれ好みだった」
「……ほかに、好みだったのは」
「小松菜のスープと、生パスタ」
アツマくんが緩やかに椅子から立ち上がった。
リビングのソファに一歩一歩近づいていく。
「わ、わたしから、にげないでよ」
「にげてなーーーい」
すぐに椅子から立ち上がって、彼の座るソファに超特急で向かっていく。
真正面に行って、立ち止まること無く、彼の上半身にのしかかる。
ベターン、と引っ付いて、
「離さないわよ。あなたがお昼ごはんの美味しかったモノをあと5つ言うまで、離さないんだから」
「5つも?」
「5つ。あなたなら言えるでしょ」
時間はかかったものの、5つの美味しかったモノを答えてくれる。
約束通り身を離して、
「満足。あなたは100点満点だわ」
と言って、すみやかに左隣に寄り添って、
「のしかかって、満足したら、ウトウトしてきちゃった」
と、カラダを右に傾けていく。
「おひるねか」
とアツマくん。
「そう。おひるね」
眼をつぶって、甘える。
「おれがソファを離れるわけにいかなくなっちまったじゃんかよ」
言うものの、その声には愛情があった。