ふと、ベッドの左側に、温かみを感じた。
おかしい。
ベッドに寝ているのは、おれと愛だけのはずだ。それでもって愛はおれの右側に寝ているから、左側にはなんにもないはずだ。
なのに、仄(ほの)かな温かみがある。
よく馴染んだような感覚。
もしや。
まさか。
恐る恐る、左方向を見てみる。
そしたら、おれの妹が、リビングで寝ていたはずのあすかが、このダブルベッドに入って来ていたのだ……!!!
なにしてんの、あすか。
これは絶対おかしいだろ。
様々なる意味で。
「オイッ」
思わず、声を出す。
「なにしてんだ!? 勝手に忍び込んで来やがって」
結構な声のボリュームで怒るんだが、右サイドの愛はグーグー寝入っていて気づきもしない。
一方の、逆サイドのあすかは、
「お兄ちゃん、なんで驚いてんの」
「アホかっ。おまえがベッドに潜って来たせいでどんな状況が生まれてるのか、きちんと理解してるんか」
「してるよ。お兄ちゃんとおねーさんと、わたし。3人で寝るだけ」
「あーのーなあーー」
「ダメなの? イヤなの? 『好きなだけ甘えていい』って寝る前に言ってくれたクセに」
「おまえ何歳だ」
「ハタチ」
「だろ!? ハタチだろ!? 倫理的に云々だとか、道徳的に云々だとか、ちょっと考えたら異様だって分かんだろ」
「そんなの関係ないよ。お兄ちゃんの隣に寝てるだけなんだし」
「そういう意識がだなあ……!」
「だって、お兄ちゃんあったかいし」
「ななっ」
「いくらエアコンあるって言っても、12月なんだから冷えるし。冷えるのイヤだし。女子は男子よりも特に……ね」
アホちゃうか。
そんなにおれの熱を頼りたいか。
甘えかたが人の道から逸れかかってんぞ。
理解してるか!?
きっと、してねーんだな……!?
妹の常軌を逸した行動のせいで、眠れない。
「明日は仕事もお休みなんでしょ。わたしのせいで睡眠不足になったって、さほど問題ないよね」
左サイドからの容赦ない声。
「おい、カラダとか、引っ付けてくんなよ」
「なぜに」
「アホンダラ」
「ええ~~っ、お兄ちゃん、デリカシーが足らない~~」
そっくりそのままてめぇにお返しすんぞ、あすか!?
どう見てもどう考えてもデリカシーに欠けるのは、欠けるのは……!!!
妹の温かさが、また距離を詰めてきた。そんな悪寒がした。
逆サイドの愛はひたすらに爆睡。
肝心なときに、頼りねえ……。
それとも、アレか。
あすかも愛も、グルなんか!? グルでやってんのか!?
やがてあすかは寝息を立てる。
悪寒が、次のフェイズにシフトしてくる……!!