掛け布団を蹴っ飛ばして身を起こした。
アイツが、羽田利比古が、夢に出てきたからだ。
「……何度目よ」
独(ひと)りごちる。
頭に鈍痛を感じながら。
× × ×
× × ×
夢の内容。
映画館でアイツとふたりで映画を観ていた。
左隣のアイツの存在が気になって、スクリーンから眼を逸らし、アイツのほうに顔を向けた。
胃がムカムカするほどに整った顔立ちが眼に飛び込んできた。
ムカムカするだけじゃなくて、ムカムカしたあとで、胸がドキドキしてきて、スクリーンから眼を逸らしたのを後悔した。
羽田じゃなくて映画に意識を向けようと頑張る。
だけど、映画は主演同士のキスシーンになって、それでまたなんだか恥ずかしくなって、スクリーンも直視できなかったし、当然左隣のオトコの顔も直視できなかった。
映画でも羽田でもなくどこを見ていたのかは思い出せない。
世界でいちばん売れているファーストフード店に入った。
『麻井先輩、映画、好きですか?』
向かいの席の羽田が訊いてきた。
『好きじゃなきゃ、映画館行かない。バカじゃないの』
アタシは答えた。
答えてからドリンクを飲む。紙ストローがざらざらして、心地良くない。
『余計な罵倒も混じってましたけど』
羽田は笑顔で、
『先輩の映画を愛する気持ちが伝わってきましたよ』
アタシはドリンクカップを音を立てて置いた。
右の席のバッグから映画雑誌を取り出して、読み始めた。
『キネ旬(じゅん)ですか?』
『んなわけないでしょ。あと、映画に詳しいわけでもないのにキネマ旬報を略すなっ』
『厳しいなあ、いろいろと』
『こんなの、厳しいうちに入らない』
『それでこそ麻井先輩です』
アタシは雑誌から目線を上げられない。
『あの。もしかしたら先輩は、映画に関わる仕事に就きたいとか』
『そこまでは思ってない』
『でもそろそろ就活の季節』
『そういう季節だからこそ、選択肢は絞らないの』
『そういうものですか』
首肯する代わりに、
『就きたい仕事なら、候補はいろいろある』
と言うんだけど、
『アタシ、仕事とは別に、『夢』、があって』
と、ひとりでに口が動き出して、
『『夢』、ってゆーのは、例えば……その……アンタのことで……』
と、思ってもみないコトバが、羽田に向かってこぼれて。
そこで眼が覚めた。
暗い天井だった。
× × ×
× × ×
テレビを点ける。
土曜午前の情報番組。
映画俳優が画面に映る。
テレビ局主導の映画。『テレビ映画』だとかバカにされがちなやつ。
アタシは映画の情報よりも主演男優のことが気になって、主演男優の顔面を眼を険しくして眺める。
どう考えても、羽田利比古のほうが、カッコいい……。
羽田のこと、アイツのこと、映画スターよりも上に見てるんだ。
自覚して、自然にカラダが火照(ほて)る。
気を落ち着かせるため、冷蔵庫に行き、30分前に紙パック1個飲み干したばっかりの牛乳を、もう1パック喉に流し込んでいく。