特急列車の車内だ。
ものすごく顔立ちの整った男子が隣の席に座っていることに気づく。
羽田だった。
羽田利比古だった。
後輩のイケメンぶりに、アタシは眼を凝らしてしまう。
間近で見ると、吸い寄せられそうで……。
「どうかしたんですか? 麻井先輩」
余裕ありありに言う羽田。
吸い寄せられそうだったのが恥ずかしく、窓のほうに眼を転じる。
車窓風景を見ながら、
「……常磐線だね。」
と、なんの意味もない呟きをしてしまうアタシ。
「そうですよ。常磐線特急ですね」
だよね、羽田。
だけど。そうなんだけど。
「そもそもアタシとアンタ、どうして常磐線特急に乗り込んでんの?」
フフフッ、と不可解な笑いかたをする羽田。
「こ、答えてよっ。知ってるんでしょ、アンタ」
ふたたび羽田のイケメンフェイスを見て言うアタシ。
アタシは前のめりになって、羽田に触れそうなぐらい距離を詰めてしまう。
「先輩」
「……うん」
「知りたいですか? 理由を」
「知りたいよ」
「じゃあお教えしましょう。理由は――」
× × ×
ここでアタシが見ている景色がガラリと変わる。
ここは――羽田が居候しているお邸(やしき)のダイニング・キッチン。
さっきまで常磐線特急に居たはずなのに。
ワープしたっていうの。
羽田が立っていた。
「麻井先輩。コーヒー飲めますか」
「ば、バカにしないでよ」
「してませんよ」
羽田が向かいの椅子に座る。
座った途端に、アタシの手もとにコーヒー入りのカップが現れた。
なんなの。魔法でも使ったの、羽田。
いつの間にか羽田は自分のコーヒーカップを手に持ってるし。
「先輩も飲んでくださいよ。最高級のミルク入りなんですよ? そのコーヒーは」
「さっ最高級ってなによ」
「最高級は最高級です」
「んなっ……」
いったんカップを置いたかと思うと、席を立ち、すさまじく大きなステレオコンポに近づいていく羽田。
「ちょちょっと、アンタなにするつもりなのよ」
「慌てないでください」
やんわりとたしなめるように言ったあと、
「麻井先輩は――ニッポン放送とTBSラジオだと、どっちが好きですか?」
「は!?」
「時計見てください。ちょうど深夜番組の時間帯ですから、オールナイトニッポンを選ぶかJUNKを選ぶか――」
掛け布団を蹴飛ばす勢いで身を起こした。
夢だったのだ。
目覚まし用のデジタルクロックを抱えて時刻を見る。
夜明け前。
恥ずかしい夢見た。
羽田の登場する、恥ずかしい夢を……。
バカ。
バカバカ。
羽田のバカバカ。
「頭痛いじゃん。アンタが夢に入ってきたせいで」
そう独(ひと)りごちて、掛け布団をキツく抱きしめる。
アイツを、羽田を、羽交い締めにするがごとく……掛け布団を、ギュッとする。