【愛の◯◯】小泉『先生』に問われたり、問い返したり

 

小泉小陽(こいずみ こはる)さんとビデオ通話している。

小泉さんは今年の春に大学を卒業し、『泉学園』という学校の教師になった。

小泉『先生』である。

ピチピチの新任の女性教師なわけだ。

念願叶って放送部の顧問になった小泉『先生』。

「部活の子たちとあまり年齢が違わないから、接しやすいんじゃないですか?」

わたしは訊いてみる。

「そうだね。『わたしだってついこないだまで高校生だったんだよね』みたいに思ったりする」

小泉さんは答える。

「いいじゃないですか〜。世代が近いから、悩みとかも共有できたりするんでは?」

「まあそうね。彼女たちもそれなりに、抱えてるものもあるみたいで。プライベートなことだから、揺さぶったりするとマズいんだけど」

「それはそうでしょうね」

「彼女たちも、高校生ぐらいの年代になると……ね」

「放送部は何人で回してるんですか?」

「主に5人。というか、事実上5人だけで。あー、もうすぐ今の部長の子が3年なんで引退するから、来年の春まではしばらく4人だな」

「少数精鋭ですね。春に新しい子が来るといいですね」

「部員集めも簡単じゃないと思うけどね」

 

「ところで、羽田さん」

なぜかあらたまったような表情でわたしの名を呼ぶ小泉さん。

「羽田さんってさ」

遠慮気味に、

「羽田さんって、学校の先生、興味ない?」

「えっ」

思わずわたしはPCに前のめりになる。

「……」と、自分の髪を弄(いじ)りつつ小泉さんは沈黙。

「どうして、そんなこと訊くんですか?」

問えば、

「適性というか、なんというか」

と彼女は言いかけて、でも、首を横に振って、

「ううん。気が早いよね」

と言って、

「羽田さんには今は、大学のことを頑張ってほしいよ。進路のことは後回し」

 

『わたしが教師に向いてる』って言いたいのかしら。

あすかちゃんの親友の徳山さんもそんなことを言っていた憶えがある。

それと、文芸部の先輩だった香織センパイもむかし、わたしに向かってそういう風なことを。

なにかを「教える」のは、苦手じゃないし、嫌いじゃないけど。

小泉さんの言う通り、気が早くはある。

わたしは大学3年生だけど、あと2年大学に通わなきゃいけないんだし。

 

「んっと……羽田さん、戸惑っちゃってる? わたしが変なこと言っちゃったから」

画面の小泉さんがなんだか縮こまっている。

縮こまり続きなのも、良くないし。

それにわたしのほうも、「変なこと」を言ってみたい気持ちがあって。「変なこと」を言って、彼女を縮こまりの逆状態にしてみたい気も高まっていて。

わたし、小泉さんより遥かに「イジワル」なオンナだから。

「そんなに極端には戸惑ってませんよ」

「そう?」

「ハイ」

元気よく首肯してから、

「ところで。わたしイジワルっ娘(こ)だから、小泉さんが教育実習してたときのエピソードを、未だにハッキリクッキリと憶えていて」

と言って、一度コトバの溜めを作ってから、

「同じく実習に来ていた男子学生と、一緒にゴハンを食べたそうじゃないですか。……その後、進展は?」