【愛の◯◯】生徒会長の振る舞いが◯◯

 

皆さま、こんにちは。

貝沢温子(かいざわ あつこ)と申します。

とある高校の1年女子で、身長155センチ。

「スポーツ新聞部」という部活に所属していて、部では「オンちゃん」というニックネームで呼ばれています。

……なんかデジャブというか、こういう自己紹介を以前やったような記憶もうっすらとあるんですが。

あっ、でも、『スポーツ新聞部の部員であると共に、「図書委員」でもある』という情報は、まだ開示してなかったと思います。

まあ、ウチの高校の図書委員会のシステムについて説明するのは、また今度ということにして……。

 

× × ×

 

生徒会室の扉を叩く。

『スポーツ新聞部の子でしょ? 入ってきていいわよ』

女子生徒の澄んだ声が響いてくる。

生徒会長の川口小百合(かわぐち さゆり)さんの声だ。

 

入室した。

真正面に川口生徒会長、右サイドに副会長、左サイドに書記と会計という顔ぶれ。

4人とも上級生なので、緊張感を覚えつつ、椅子に着席して、川口会長と向き合う。

「こんにちは貝沢さん」

と川口会長。

「どうもこんにちは……川口会長」

「いかにも。私が現・生徒会長の川口小百合。7月産まれの身長167センチ。長髪の黒髪ストレートがトレードマークで、『小百合』っていう名前の由来はもちろん某大御所女優――」

「な、なんでいきなり自己紹介をっ」

「貝沢さんこそ、どうしてそんなに驚愕してるの?」

自意識……っていうんだろうか?

自意識みたいなものの度合いが、この女子(ひと)はたぶん高いんだ。

完全に川口会長のペースになってしまった。

迫る文化祭のインタビューに来たというのに。

「ねえ」

インタビューを開始するタイミングを逸したわたしに向けて、

「9月になってから、あの『3年生トリオ』、1回も生徒会室に取材に来てないんじゃない?」

と川口会長が。

「日高さんも水谷さんも会津くんも、このお部屋に姿を見せないから、私ちょっと淋しいんだけど」

とも。

「あの……『姿を見せない』のには、オトナの事情が……」

追い込まれながら言うわたし。

追い込んでくる会長は、

「面白いこと言うわね、『オトナの事情』だとか。貝沢さん、1年のあなたにとっては、3年生トリオは『オトナ』なんだ」

ぐっ……。

「2つ学年が上だと、そんなに『オトナ』に見えるの?」

追い詰められながらも、

「3年のかたがたは、そろそろ……ご卒業ですから」

と精一杯に言うわたし。

「あなた面白いね」

余裕でそう言ってくる会長。

胸の鼓動が速くなっちゃう。

「副会長~。この子に飲み物出してあげて~」

会長がそう指示すると、部屋の片隅にある小さな冷蔵庫から、副会長(男子)がコーヒー牛乳の紙パックを取り出してくる。

会長のペースにハマったまま、副会長が差し出した紙パックを受け取ってしまう。

そんな弱いわたしに、

「いいでしょコーヒー牛乳。あなた1年生なんだから、まだまだ伸びていく余地があるんだから」

と会長。

「こ、これ以上、背は伸びないと思います。男子ならいざ知らず」

「そっかなあ」と言って会長は、

「じゃあ、『伸びていく』じゃなくって、『大きくなっていく』って言ったほうが良かったかしら」

とか言い出して、余裕ありありの笑顔をわたしに見せつけてくる……!

『大きくなっていく』なんて。

『大きくなっていく』対象を考えた途端に、悪寒がしてしまう。そんな会長の「からかい」だった。

『大きくなっていく』の「主語」のことを考えたくなくて、紙パックにストローを突き刺して、ゴクゴクゴクンと一気に飲んでいく。

飲み切ったパックを胸のあたりで掴んでいるわたしに、

「いい飲みっぷりね。きっと『大きくなる』わよ」

という会長の「からかい」。

「……スケベさんですか。会長は」

一気に飲み切ったコーヒー牛乳のおかげで、わたしの中に反発心が芽生えてきてしまった。

「そうねえ。貝沢さんの言う通りかも。生徒会室には相応しくない下世話な言い回しだったかもねえ」

言いつつも、謝る素振りなど1ミリも見せずに、

「ところでー。私、あなたたちの出す校内スポーツ新聞を毎日欠かさず読んでるんだけど」

「……それはどうも」

「貝沢さんも、相当な『ヤキュウハ』なのね?」

「『ヤキュウハ』……!?」

「野球に派閥の『派』で、『野球派』よ。あなた、公認野球規則をテーマにした記事をこの前書いてたでしょ? あれは面白かったわよ」

「わ、わたしとしては、スポーツであるのならば、分け隔てなきように」

「そうやってヘンテコなセリフ回しになっちゃうところまで面白い」

会長。

なんで、なんで、そんなに前のめり体勢になって来てるんですかっ。

中腰ですよね!?

腰を上げて、前のめりになって、わたしの顔に自分の顔を徐々に徐々に……!?

「ちちち近づき過ぎだと思うんですけど会長っ!!」

「近づくわよ」

「い、意味わかりません」

「だって近づきたいんだもの」

「ててて適切な距離をっっ」

「いいじゃない。適切な距離だなんて堅苦しいし」

「生徒会のコンプライアンスはいったいどーなってるんですかっ!!!」

「あらあらあらあら」

濃厚な距離の寸前で彼女はピタッ、と止まって、

「賢いのね。『コンプライアンス』なんてコトバを知ってるだなんて」

 

これほどまでに……ホメられても……嬉しくないことって……。